劇場公開日 2020年12月4日

「ミュージカル!」ザ・プロム CBさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5ミュージカル!

2021年2月23日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

プロムとは、プロムナード(舞踏)の略称で、英・米・カナダの高校で学年の最後に開かれるフォーマルなダンスパーティーのこと(Wikipediaより) このプロムというものが、イベントとしてどのくらいアメリカ人の心に深く残っているかを体感できます。

NetFlix制作によるミュージカル映画。LGBTQを最前面に押し立て、そこに往年の名優たちをからめて老若男女問わず楽しめる話に仕立ててきた。
大切な主題を、ミュージカルらしく、あくまでも軽やかに、重たくし過ぎずかつ決して軽んじることなく、いいバランスを保ち続けた結果が、高評価なんだろうな。

かってはトニー賞までとったふたりが、芝居で酷評され、「自分たちのようなナルシストが嫌われる時代だ。活動家のようにふるまって好感を上げなければ」 と思い立つ。 そこで、「自分を愛したまま、よい人に見える方法」 を実践することにし、LGBTQを認めないPTAによって、プロムからはじき出されようとしている少女を救いに、ニューヨークからインディアナへ向かう話。 「女の子を助けるぞ、頼まれてないけど」 と、このお調子者たちはインディアナをめざす。

出発しようとする元スターたちのセリフは、「田舎者の狭い世界へ行くぞ」、「みんな芸能人には、こびへつらうからな」、「歯並びの悪い連中に言いに行くぞ」 だ。この差別的発言が、彼らが決してインディアナの人々より民主的な考え方にいるわけではないことを示していて滑稽。実際、いざ乗り込んだメンバーの空回りぶりは、ぜひ劇場でみてください。笑えるよ。ただ、観ていただくとわかるように、彼らは(売名行為のためとはいえ)行動した、という価値だけはある。

女子高生エマが言う、「ママの頃とは違うの。少し、よくなったの」「こうなったんじゃないのよ、最初からこうなのよ」 この二つの言葉を、俺たち日本のお爺さんたちは、心から聞かないとならない。自分達の考え方は、果たして少しはよくなっているだろうかと。「わしは、そういう者にも理解があるぞ」 と言ってしまっていないか。そもそも多様なのだということ自体を理解しているか? まあ、本作は難しいことを言うのは似合わない映画であって、こんなことを言うこと自体が、粋じゃないね。

「人生はリハーサルじゃない。終わってしまう前にみせつけよう。波風を立てよう。大胆にやらないと失敗する」 いい歌詞だ。 そして聖書の言葉 「隣人を愛せ」 をあらためて強調する終盤も、キリスト教の国アメリカらしくて好感。

校長先生が言う、「(現実があまりに辛くなったとき)芝居は気晴らしというよりも癒しだ。(ミュージカルを遠くニューヨークまで観に行くと)時には家に帰ってきたような気がする。逃げ込む場所がほしいんだ。誰もが踊る。その理由なんて、誰も考えない」 ・・・コロナ禍の中にいる今だからこそ、この映画が上映される価値は、ここにあるんじゃないだろうか。

だから、正直、トニー賞までとったふたりが出かけて行ったことが、見事にはまっているストーリーとは思えないし、この映画が大傑作とも思えないのだが、とても楽しめたし、いま観てよかったと思う。いやあ、ミュージカルってやっぱり楽しい!!!

おまけ
裁判所が 「差別せず、プロムを開け」 と通告してきたと伝える校長に対してPTAが言う 「大きな政府がコミュニティを分断しようとしている」 というセリフは、なんか南部ってこんな感じと体感できてよかった。

CB