劇場公開日 2020年11月13日

「凡庸な作品。」ヒルビリー・エレジー 郷愁の哀歌 ナパイアさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0凡庸な作品。

2021年3月14日
PCから投稿

凡庸な作品。
映画というよりただある人(家族)の人生を時間軸で追っただけのドラマ、説明映像を見たとの思いしかない。
どうやらこの映画は格差を一つのワードに挙げて紹介されているようだが、格差を感じ得る場面はほぼない。映画の中の出来事は、また人の様子は格差関係なく何れの人にも当てはまるだろうことで、単にお金がない等の事実を映しただけで視者が導かれるところはと思うと、表現が安易なのか稚拙であっただけなのかもしれない。
格差というのは専ら対社会的なものになるのだろうが、内なるものへと外への姿の境が確り表されることもなく、更に例えば内なるものへとしても、貧乏と貧困の違いさえ顕わにされるようなこともなかったようだ。ただ繋げればよいという話ではない。そんなものを映画に期待しない。少なくとも古の某氏の日本の印象ではないが、貧乏でも貧困はない、ということはある。
もう少し人の、人間関係の、対社会の、さらに地域の土の匂いを感じるような緻密な表現がなければ、言い換えればフローの表現に偏らず、ストックに光を当てる濃い瞬間を組み込まれなければ、この映画に心を動かされることもなく、そのような人生を送っている人も少ないと思う。
格差の言葉に固執するならば、例えば今のコロナ禍。ニュース番組に家計資産が130兆ドルもあるアメリカのフードバンクに並ぶ長い人の列が映るが、車が通りすぎる道を挟んで、フードバンクの入り口を10分眺めていた方が感じる、肌で感じるものが多く、深いと思う。
鑑賞後、原作の本の評をネットで拝見した。比較総べられた評の文章を見るに、おそらく原作の本を読んだ方が良いように思われた。原作を読んでいない勝手な妄想だが、もし原作を読まれたならばこの映画を鑑賞しない方が良いのではないかと妄想する。俗に言えばあまりのドライさに落胆するだろうし、映画の感覚のままに社会が受け止めるだろうことを想像すると失望するかもしれない。
ただ普通のドラマとしてみるには良いかもしれない。明らかに下手な小手先のテクニックで誤魔化したような場面はほぼなく、その点では好感を持てた。加え、グレン・クローズの演技は、孤軍奮闘的故か、さすがと好意を持てた。
(余談ながら、最近の映画と称するものを観て思うのだが、製作時間なのか予算なのか、理由は定かではないが、これぞ映画と思わせる作品が少ないように思う。この映画の邦題も題材にして「郷愁の哀歌」と加えているところに、今の映画配給の様子が窺えるのかもしれない。)

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ナパイア