劇場公開日 2020年9月4日

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「名作曲家への敬愛が重ねられた、表現者として生きることの尊さと業を描く珠玉作」海の上のピアニスト イタリア完全版 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5名作曲家への敬愛が重ねられた、表現者として生きることの尊さと業を描く珠玉作

2020年8月27日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

泣ける

興奮

幸せ

170分中の45分、実に25%カットの国際版をそうとも知らず観たのは遠い昔。筋の細部も忘れてのイタリア完全版鑑賞となったが、何より1900とジャズ創始者とのピアノ対決の尋常ならざる見応えに心酔した。均衡を欠くほどの長尺をこのシークエンスに割いたのは、物語の山場の一つだからだけでなく、トルナトーレ監督が「ニュー・シネマ・パラダイス」以来組み、本作にも珠玉の音楽を提供したエンニオ・モリコーネへの敬愛を重ねたからだろう。

キリスト生誕を基準とする西暦の節目の年に生まれ、幼少時に一夜にしてピアノを習得、荒波に揺れる船内でピアノと踊る演奏、熱演後のピアノ弦で煙草の火をつけるなど、奇蹟の数々は1900の聖性を象徴する(俗世に降り立たず恋を追わないのも必然だ)。監督はさらに、人の思いや感情を作品に込める表現者の尊さと、求道者ゆえの業をも描き切った。モリコーネが没した夏に日本公開されるのも奇縁だろうか。

高森 郁哉