劇場公開日 2020年7月31日

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「良い青春映画は登場人物が生きている世界が狭い」君が世界のはじまり わたろーさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5良い青春映画は登場人物が生きている世界が狭い

2020年8月19日
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個人的な青春映画の金字塔「桐島、部活やめるってよ」とこの映画の共通点は、登場人物の視野というか住む世界が極端に狭いこと。前者は「学校=世界の全て」と言っても良いくらい学校以外のシーンを原作から省くことで、スクールカーストに溺れる、若しくは全く屈しないキャラクターによる屈指の群像劇に仕上がっている。他にも「バクマン。」は家族の存在を廃し、漫画に没頭する二人と取り巻きだけで完成させた作品。

では、この作品はどうかと考えてみる。住む世界自体はこれまでに挙げた作品よりも広い。でも、ずっとこの地にいるキャラクターは、何でも揃うショッピングモールの閉店に動揺し、京都にデートに行くときはおしゃれする1番都会的な女の子でも地元ではダサい靴でも平気だし(今時の高校でもあの上靴のまま?女の子もスニーカーなの?と思ったり)。視野は狭いなあと思わされる場面が何ヵ所もあった。冒頭の事件の当事者のことは同じ学校に通っていても…っていう展開は素晴らしかったですね。この時点で青春映画として僕の中では好みな部類になります。

この映画の1番素敵なところはどのキャラクターも魅力的な点です。主要メンバーの中で唯一感情をはっきりと表に出せる琴子演じる中田青渚さんが特に好きでした。どこかで見たことがあるなあと思ったら、ミスミソウでしたか…。あの「やさぐれ志田未来」感が今後も楽しみです。ただ、彼女がはっきりと表に出す感情に対して、主演・松本穂香さんが受け止めているようで実はあるメッセージを発していることが後から説得力を持って分かる演技があってこそ、中田さんも輝きを増したんだろうと思いました。ラストシーンの二人が並んだときの画面の強さが忘れられません。

ややネタバレですが、脚本も細かいところまで練られていたと思います。たぶん自分が初見では気付いていない仕掛けもたくさんあるんだろうと思います。自分が気付いたなかで特に唸ったのは、『「えん」は京都大学を希望している→琴子は京都にデートに行こうとする→「えん」としてはデートが成功されると困る、でももし成功したら良いイメージが残って京都にも頻繁に来てくれるかも→デートの服選びに付き合ってあげる→失敗して安堵しながら励ます』という流れです。あと、えんと業平のとあるシーンのあと、授業では「異国船打払令」を出してきたのも絶対意図的だと思います。「カチンコチン」の件も「コトコトコト」に繋げたのかなと思ったり。

また、この映画の名前である「君が世界のはじまり」もそうだし、副題として添えられている「Mv name is yours」の意味も、作品を見ているとよく分かりました。視野が狭くて見えにくかった未来も、施設を提示されたり、料理と向かい合うことで居場所を結果的に作ったりと希望を抱かせて終わらせるのも良い余韻です。ショッピングモールを出たあと表情は一切見えない影だけの動きで、結果的には「学校」に集まるんだけど、それぞれの未来への一歩が散り散りになっているところも開けていて良いなと思いました。

ブルーハーツの「人にやさしく」は映画内で実質3パターン流れるのですが、3パターン目が1番染みましたね。息づかいがしっかり聞こえる感じが。でも3パターン目は「誰かに」ではなく「自分に」頑張れと言いたかったのかなと感じました。

後はブルーハーツへの思い入れの度合いでこの作品への評価が上下する感じですかね。先生の描き方はどうにかならんかったかなとは思いました。

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わたろー