劇場公開日 2020年7月3日

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「もう一つの「万引き家族」。見終わった後の気持ちがこれ程まで違うのは何故だろう?」MOTHER マザー 細野真宏さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0もう一つの「万引き家族」。見終わった後の気持ちがこれ程まで違うのは何故だろう?

2020年7月2日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

まず、本作は大まかな題材が「万引き家族」と似ています。
そして、共にビターなラストでしたが、気持ちの「重さ」が全く異なりました。
では、何故ここまでの違いが出るのでしょうか?
それは、本作の「実話の要素が重すぎる」という点が最大の理由でしょう。
さらに、もう一つ、主演が長澤まさみだったから、というのも大きいと思います。
要は、「好感度が圧倒的に高い女優」に、みんながトコトン嫌がるような「好感度ゼロの役」をやらせたらどうなるのか、という、ほぼ実現不可能なことをやってのけている点が、本作の特殊性としてあるのです。
社会が成り立つには、最低限の共通の価値観の「常識」というものが必要になります。
そのため、「働けるのに全く働かずに遊びまくり子供らに迷惑をかける親」は傍から見ると嫌気しか起こりません。
まさに、そんな「働くのをトコトン嫌がり、どんな悪い事をしても、できるだけラクをして生きていこうとする母親」を長澤まさみが演じているのです。
しかも、これまで通り「演技派」なので、これがまたリアルに演じ切っていて、見ている側が複雑な気持ちになってしまいます。
さらに、「自由奔放で行き当たりばったりの生き方」でも、自分一人で生きているのなら、これほどの強い気持ちは動かないのかもしれません。
ただ、この母親は「自分の子供をどう育てようと私の勝手でしょう」と、時には子供を洗脳するような言動で操り続けているので、さらに嫌悪感が増すわけです。
とは言え、これはあくまで実話をモチーフにした「映画」に過ぎません。
1本の映画でこれだけ心が動かされるのは、ひとえに役者が全員上手いから、ということもあります。
最初から50分まで登場する「小学生の時の息子」は、窪田正孝の少年期を思わせるような顔立ちで是枝作品にも出ていそうな演技の上手さで、50分以降の「5年後の息子」も初の演技とは思えないほどの「名役者」でした。
子供への目線に立つと居た堪れない気持ちになったりもしますが、個人的な感情を抜かして純粋に評価すると、これ程までに人の感情を動かすことができた点で、映画史に残るくらいの作品と言えますね。
役者全員の見事なアンサンブルに加えて、長澤まさみの新境地が見どころと言えると思います。

細野真宏
細野真宏さんのコメント
2020年7月4日

ゴローさん、こんにちは。「クズさ」っていい表現ですね(笑)
「万引き家族」の時も公開時にいろんな批判がありましたが、改めて本作と比較してみると両作品の考察が深まると思っています。
愛というのはいろんな種類があって難しいですが、確かに「万引き家族」の場合は、ああ見えて実は(一般的な)愛に溢れていましたよね。
あとは、直向きな姿勢も「万引き家族」の場合はみんなが持っていましたよね。案外、この2つの要素が「万引き家族」という作品の隠れた評価の根底にあったのかもしれないですね。

細野真宏
イナヅマゴローさんのコメント
2020年7月4日

何が何でも働きたくない、自分では何もしない、というクズさが圧倒的でした。

万引き家族の一家には、やってることは正しくなくとも子供に愛がありましたからね…

イナヅマゴロー