劇場公開日 2019年3月23日

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「この世の地獄が白日夢のように襲いかかる」セメントの記憶 MPさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0この世の地獄が白日夢のように襲いかかる

2019年3月27日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

泣ける

悲しい

自らもかつて徴兵制によりシリア軍に従軍し、そこで戦争の惨さを経験しているジアード・クルスーム監督が、同じ思いを引き摺りながらベイルートの高層ビル建設に勤しむ同胞たちの厳しい現実に切り込んでいく。セメントの記憶とは、彼らが爆撃で破壊された故郷の瓦礫の中で、また、ビル建設の最中に直接的に味わうセメントの味を意味する。臭いではなく、味。そこに、破壊と創造を繰り返す愚かな人間に対する現場からの警鐘が込められている。しかし、このドキュメンタリーが秀逸なのは、そんな過酷な現実をまるで絵画と見紛う美しいフレームショットの積み重ねによって、別次元へと昇華させている点だ。空中にそびえ立つ高層ビルの梯子から見下ろす、ネオンサイン煌めくベイルートの海岸線、壁の穴から覗くスカイブルーの空、ミキサー車に取り付けられたウェアラブルカメラがとらえる回転する町の風景、等々。研ぎ澄まされた美意識を用いると、この世の地獄がさながら白日夢のように観客に襲いかかる。このような痺れる映画体験はあまりあるものではない。

清藤秀人