劇場公開日 2019年6月28日

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「愛の水中歌」COLD WAR あの歌、2つの心 かなり悪いオヤジさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5愛の水中歌

2020年5月6日
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くっつきはなれてを繰り返す亡命芸術家ヴィクトルと民族舞踊団のスターズーラ。監督のパヴェウ・パブリコフスキによるとモデルは両親だそうで、国境をまたいでいったりきたり、別れてはまた一緒になる2人の関係性が子供心にとても破滅的に見えたという。そんな両親の心のルーツはどこにあったのか。東西冷戦下のポーランドで古い民族音楽の収集にまわるヴィクトルの姿は、父親の分身であるとともに監督パブリコフスキのオルターエゴだったのではないだろうか。

ソ連からの圧力により共産主義のプロパガンダとして利用される民族舞踊団。アンジェイ・ワイダのような政治的アレゴリーというよりも、映画の中ではあくまでも2人の愛を妨げる“障壁”として描かれる。パリに亡命したヴィクトル、ポーランドに残ったズーラ。民族舞踊団の海外講演を機会に再会しパリで新生活をはじめた2人。しかしパリの退廃と喧騒がまたもや“障壁”となり、愛を見失ったズーラは再びポーランドへと戻ってしまうのだ。
「ポーランドでは男だったのに…ミッシェルは1日に6回も(!!!!!!)」

人々が片時もスマホをはなさず大量の情報に埋もれている現代はラブストーリーにはむいていない、と監督は語る。この映画で障壁があればあるほど燃え上がる愛に没頭する男女の姿を描きたかったという。♪オヨヨ~の歌声が郷愁を誘うポーランド民謡とともに、モノクロ・スタンダードの抑制された映像美が、その愛をより純化してスクリーンに映し出す。登場人物の上部に余白をもうけた独特の構図や、被写界深度のあげさげによって、ヴィクトルならびにズーラの気持ちの揺れを見事に表現しているのだ。

ドストエフスキーの新訳で一躍脚光をあびた亀山氏によれば、東欧ロシアにおける“父殺し”には別の意味が隠されているという。時の権力者の暗殺、そしてそこには“神殺し”の意味合いまで含んでいるらしい。廃墟と化した教会で結婚式をあげた2人が選んだ道とは、死という永遠の障壁さえのり越えられそうなぐらい力強い愛だったのだろうか…
「あっち(あの世)の方がきれいよ」
呆然自失となったヴィクトルを導く“父殺し”ズーラの腕が逞しい。

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かなり悪いオヤジ