劇場公開日 2018年7月21日

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「サクラモンテのチャナ」ラ・チャナ kthykさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5サクラモンテのチャナ

2020年11月14日
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フラメンコ映画は好みのようだ。アントニオ・ガデス舞踊団、サクラモンテの丘、そして今回はラ・チャナ。毎回、何か内を騒がすものがあって、見終わるとひとたび必ず振り返ってしまう。

素晴らしい映画だった。ラ・チャナはしきりにコンパス、コンパス・・・と言う。フラメンコでもっとも大事なこと、それはリズムだと彼女は言っているのだ。

そして、腑に落ちた。ラ・チャナは天才だ。

彼女の踊り、叫び、靴音・・・全ては一個の肉体から絞り出され、弾き出される全霊のカタチ。その姿は見過ごしていると人間的というより、寧ろ生に叫ぶ動物的なもの。こんな激しい塊の内からの表出はとても人間のものとは思えない。しかし、ラ・チャナが表出するもの、それは間違いなく人間の姿。そこにはある種の秩序というものがある。これが究極の現代芸術のカタチかもしれない。まがい物、混じりもののない感情、それが秩序を持ち、カタチを持ち、観る者の感性に直接振れてくる。そして、観る者に残されるモノ、それは共鳴、共振というよりある種、別次元・別世界の開放感だ。

腑に落ちた、と書いたのはラ・チャナが表出するの魂の叫びは決して動物ではなく、人間のもの。その叫びはコンパスにより秩序づけられ、我々が持つ感性というカタチを作る。つまり、彼女がしきりに語っていたコンパスという言葉、手足で打ち出される絶妙なリズムが生の魂の表出という獣的なものを人間的なモノ・カタチに変えているのだ。

と、腑に落ちてみると気がついてくる。アントニオ・ガデス舞踊団はなんと洗練されていたことか、まさに集団による現代芸術そのもののカタチがあの群舞、あの音楽の中に込められていた。そして、忘れられないサクラモンテの丘の人々。老若男女、虐げられた彼らが持つ内面の全てを歌と踊り、ギターと靴音に変え、洞窟の中に響かせた。

kthyk