劇場公開日 2017年10月28日

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「「共感度ゼロ」の中身。」彼女がその名を知らない鳥たち sow_miyaさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0「共感度ゼロ」の中身。

2024年1月31日
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鑑賞方法:VOD

ポスターに「共感度ゼロの最低な女と男が辿りつく“究極の愛”とは」との言葉がある通り、登場人物たちに全く共感できない。
竹野内豊も、松坂桃李も、心底惚れ惚れとするゲスっぷり。
それは、阿部サダヲも蒼井優も一緒。中身は違えど、ゲスであることには何ら変わりない。

彼等のゲスさは、全く自分の中には見当たらないものかと言えば、そんなこともない。にも関わらず、「共感したくない」と思ってしまうのは、自分の中にある「あそこまでゲスだとカッコ悪いよな」と思う理性と、「自分がそのゲスさを受ける立場だったらたまんないよな」という防衛本能が理由な気がする。その「彼等は自分とは違う」と思いたい気持ち自体が、自分自身の中に眠るゲスさに他ならないんだろうけれど。

そうした「直面したくない自分の負の部分に向き合わされる気持ち悪さ」が、どんなに不快でも、ちゃんと重く響いてくるのは、役者たちの力だろう。主要人物を演じる4人全員が思う存分に力量を発揮している。

ただ、自分がちょっとモヤモヤしたのは、表現されている個々のゲスさとは違って、この映画の根底に、「マチズモ=男性優位主義」の無自覚な肯定がある気がしたから。
陣治の「献身」も、マチズモ的な価値観にたった「束縛」で、ラストの行動も、生涯消えない「呪い」を十和子にかけたように見える。そこが、自分にはちょっとハマらなかった。当人たちは、愛として示し、愛として受け取ったのだろうけれど。

sow_miya
琥珀糖さんのコメント
2024年1月31日

補足を読みました。

私のレビューで興味を持たれた・・・とても光栄です。
言われてみれば十和子は今まで一度として、男性から
対等な人間として扱われたことがないですね。
また、十和子は自分の世界を持たず、深く思考をしない女性かも知れません。
だから黒崎のような見た目の良い羽振りのいい男性にしか目が
行かないのかも知れません。
陣治と十和子は「何を夕食に食べるかしか」共通の話題がないですものね。
陣治は愛と言う名の束縛ですし、後は庇護を愛だと錯覚しているし、
十和子は要するに自立も自活もしない。

段々と本質と問題点が見えてきました。
ありがとうございます。
こちらこそよろしくお願いします。

琥珀糖
sow_miyaさんのコメント
2024年1月31日

琥珀糖さん、コメントありがとうございます。あくまでも個人的な感想で、うがった見方かもしれませんが、少し補足します。
竹野内豊も松坂桃李も女性を物のように扱っているのは見ての通りですが、十和子につくす陣治も、「男は女を守るべき」という固定観念からの行動のように見えたのです。十和子を人として対等に見ていないというか…。
そうした陣治のとる行動の一つ一つを見て「ここまでするのか」と思う裏に、「男なのに」という思いがチラッと頭をよぎる自分自身が、まずマチズモに毒されているのですが、陣治と十和子の関係の描かれ方が、私みたいな見方を是として描かれているように感じて、レビューのような表現になりました。
「哀れなるものたち」を観たばかりで「私の身体は私が自由にしてよいのだ」と気づいたベラの清々しさにやられていたので、余計に束縛の関係を苦しく感じたのかもしれません。
とにかく、語りたいものが次々と生まれてくる作品は、よい作品であることは間違いありません。
今回、この作品を鑑賞したのも、琥珀糖さんのレビューを読んで、惹かれたからです。
今後もよろしくお願いします。

sow_miya
琥珀糖さんのコメント
2024年1月31日

鋭い分析ですね。

確かにここまでゲスの極みな主人公たち。
特殊な世界。
男性優位主義的・・・でしたか?
陣治の愛は献身愛と言うよりは束縛愛。
死を持って十和子に献身を植え付け呪縛する。
鋭いです。
私は、この映画の世界に没入して、冷静には分析は今も出来ないで
います。
私の世界にこう言う人たちは皆無ですから、惹かれたのかも知れません。
まさに白石和彌の映画。
過剰なる暴力にも通じる過剰なる献身愛の呪縛。

琥珀糖