劇場公開日 2016年8月11日

  • 予告編を見る

「サイドストーリーが大事」栄光のランナー 1936ベルリン 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0サイドストーリーが大事

2016年9月3日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

知的

オリンピックイヤーに日本で公開されるというタイムリーな映画ではあるが、アメリカ映画とは違って、世界の問題と正面から向き合う真摯な姿勢がある。
主人公は貧困と公的な人種差別の厳しい状況の中で、ささやかな幸せのために陸上競技に打ち込む。一方、アメリカのオリンピック委員会はナチスが主催するベルリンオリンピックの出場について紛糾する。オリンピックは政治と切り離されるべきだという説について、ナチが国威発揚のためにオリンピックを政治利用しているから参加すべきではないという議論があり、対して、主催国の政治状況がどうあろうと、アスリートは政治と無関係だから参加すべきだという議論もある。
僅差の投票でアメリカはベルリンオリンピックに参加することになり、オーエンスが大活躍するありさまが主なストーリーとして描かれてはいるが、アメリカ代表で現地に行ったユダヤ人選手が出走できなかったり、ドイツ選手が専制政治に苦悩していたり、ドイツのジャーナリストが権力者から脅されたりと、サイドストーリーに当時の問題が散りばめられていて、英雄の活躍物語だけではないことがわかる。観客はそこのところをきちんと観なければならない。オリンピックのありようについて警鐘を発している映画でもあるのだ。さすがにフランスとドイツの映画である。ハリウッドのお手軽B級映画とは一線を画している。

耶馬英彦