劇場公開日 2016年5月21日

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「私もなれなかった。だから、おもしろい」海よりもまだ深く りりまるさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0私もなれなかった。だから、おもしろい

2019年12月30日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:TV地上波

なりたい大人になれなかった人へ向けてのストーリー。なので、主人公は底辺ギリギリのぱっとしない中年男。犯罪を犯す訳でもないので、そういった意味での映画映えもない。でも、この男を主人公に据える映画って貴重だなと思いました。現実にはたくさん存在してるはずなのに、何かいないような気がする人たち。完全に自分とは違うと言えなくて同族嫌悪から来るのかな。

この映画は何も起こらない、だから何も変わらない。
でも、胸に刺さるセリフがたくさんあって、余韻が残りました。

私もなりたい大人になれなかったひとり。と言うより「なりたい大人」の想像力が乏しかった。
自分の親を見てここは親と同じようになりたい、ここはなりたくないという視点しかなくて、自分の欠点や長所に目を向けて努力することを知らなかった。

「私の人生どこで間違っちゃったんだろう」も間違いの終点に着いてから出てくるセリフだなとしみじみ。
途中だと分からないんですよね。残念な事になぜか。
そこが、なりない大人になれた人となれなかった人の境目なのかもしれないなと思いました。

希林さん演じる淑子の住む団地、すごく懐かしさを感じました。昔は同じ所に同じような人が集まって似たような生活を送ってたのにね、今の若い人たちはどこに行ってしまったんだろう。

淑子が「海よりも深く人を愛した事がない」と言っていて、それは子供も含めてよね…だとしたら、淑子にはっきりそう言ってもらえて嬉しかった。
それに続く「深く愛した事がないからこそ、生きていける」もそうかもしれないな、と。
深く愛するって人によって定義が違うとは思いますが、愛の深さを測ってそれに捉われたら生きていけないのは確か。

希林さんの仕草ってただの自然な仕草じゃなくて、親近感のある自然な仕草だなと思います。母親や祖母を思い出す仕草。
実家に帰ったような安心感があるからこそ、淑子のセリフは私に向けて言われたように感じました。

この映画を観て、ほっとしたり十数年後の未来が怖くなったり、夫婦の難しさを感じました。
ある程度、歳を重ねたら考えすぎてはいけない。
自分の手に収まる中で幸せに生きることを考えないと。理想のなれてたかもしれない自分を作り出して、あるはずだった未来なんて考えてたらだめだなと思いました。

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りりまる