ブレンダンとケルズの秘密 : 映画評論・批評

ブレンダンとケルズの秘密

劇場公開日 2017年7月29日
2017年7月25日更新 2017年7月29日よりYEBISU GARDEN CINEMAほかにてロードショー

“世界一美しい本”をモチーフに魔法のような美が躍動するファンタジーアニメーション

1年前、アイルランド民話に材をとった「ソング・オブ・ザ・シー 海のうた」で観客を魅了したトム・ムーア監督が、09年に完成させたデビュー作。2作目につながるアート・アニメーションの美しさと豊かさ、楽しさをたっぷりと湛え、アカデミー賞にノミネートされた傑作だ。日本でもやっと劇場公開がかなって喜ばしい。これほどの、アニメーションでなければ表現できない美しさに浴するチャンスはめったにないからだ。

本作がモチーフにするのは、“世界一美しい本”と言われる「ケルズの書」。華麗なケルト文様の装飾が施された、福音書(聖書)の写本である。スコットランドの島からバイキングの襲撃を逃れてアイルランドのケルズ修道院に移され、9世紀に完成したと伝えられている。本作は好奇心旺盛な少年修道士が勇気をふるう冒険ファンタジーであり、「ケルズの書」が完成するまでの物語をイマジネーション豊かに活写する。

ムーア監督は宮崎駿監督作品など、さまざまなアニメ作品、クリムトやミュシャといった絵画にドイツ表現主義映画などからも影響を受けている。しかし、それらの手法をうまく混ぜ合わせながらアイルランド文化と自然への敬意を込め、完全にオリジナルなスタイルを確立。3Dアニメ全盛のこの時代に、昔ながらの手描き2Dがいかに観客の想像力を刺激するかを思い知らせてくれる。

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とくに圧巻なのが、アイルランド・カラーの緑が画面を占拠する森のシーンだ。少年修道士ブレンダンは、「書」を完成させるために必要な木の実やクリスタルを求め、禁じられた森へ。そこで少女の姿をした白いオオカミの精、アシュリンと出会い、助けられながらクエストを果たすのだが、ここでの木漏れ日あふれる森は、くるりんとしたケルトの文様を溶け込ませためくるめくデザインから成っている。それが万華鏡のように躍動するさまを見るのは、ため息をつくのも忘れるほどの快感! まさに魔法だ。しかもキュートなアシュリンの野性味に満ちた自由な動き、しぐさ、表情、歌声がまたたまらない。ブレンダンとの短い交流で生まれたほのかな想い、その永遠性とせつなさまでもがきっちりと伝わってくるのだ。

ラストのパートでは、それまでまるで敵役のようだった叔父=修道院長の思いが涙を呼ぶだろう。ブレンダンの姿は、“世界一美しい本”がどんなに長い歳月を経て、一筆一筆どんなに丁寧に魂を注ぎ込んだものなのかを物語る。そして、その「ケルズの書」から文様が抜け出し、踊るように動き始めるページの麗しさ! 「書」と同様、本作も間違いなく、作り手たちの注ぎ込んだ魂の結晶だ。

若林ゆり

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