「負の連鎖による人間たちの綱渡り」スリー・モンキーズ uzisawさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5負の連鎖による人間たちの綱渡り

2017年1月11日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

スリー・モンキーズ(見ざる 言わざる 聞かざる)でいてしまうことにより、あれよあれよと殺伐と虚無と葛藤の渦に飲み込まれていってしまうノワール・サスペンス。「あのとき、見ていれば…言っていれば…聞いていれば…。」と、もしくはその逆を考えてしまうと、人生と人間同士と言うのはいかに綱渡りの状態にあるのかと思い知らされる。父、母、息子の3人は、それぞれが人間臭くまた、それぞれが猿だ。ただ悪人ではないというところが肝だ。終始セリフを削ぎ落とし映像と音響が与える心臓が締め付けられるような緊張感と、安易な解決や、もはや安易なバッドエンドさえ用意してもらえないというアンチ娯楽映画な訳だが、映画が最後の暗転を見せたとき、「人生とは、そういうものだ。」と感慨深く数倍にも心拍数の速くなった心臓を落ち着かせるほかない。「対価と代償」、「自己犠牲の顛末」、「人を愛し、憎み、葛藤し、許す。」など、普遍的かつ本質的で鋭く重いテーマを盛り込んでいる。表情一つで登場人物の性格や、映画の行間で何を行なったのか。ということさえ切迫感を持って感じさせる役者の演技も素晴らしい。シーンや物語の本質を映像で表現するべくここぞというときの逆光のシーンや緊張と緩和の連続など、映画論理としても緻密で至極上質な演出。カンヌの監督賞に相応しい手腕だ。決して幸福な物語ではなく、普遍的ながら内包する狂気と暗雲立ち込める展開はシリアスにほかならないが、「人間は愚かな行為をしてしまう。だが、それこそが人間味であり、ある種の人間的魅力なのだ。」と、言ってしまいたくなる素晴らしい映画だった。

uzisaw