劇場公開日 2016年2月20日

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「映像だけは良い」X-ミッション アラカンさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0映像だけは良い

2016年9月8日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

興奮

1991 年に公開されたキアヌ・リーブス主演の「ハートブルー」(原題 “Point Break”)のリメイクである。3D 字幕版を鑑賞した。旧作では,キアヌ演じる FBI 捜査官が,潜入捜査した銀行強盗の犯人との間に友情を芽生えさせる様子が丁寧に描かれていたが,映画中のアクションシーンはサーフィンとスカイダイビングだけであった。今作は,サーフィンやスカイダイビングに加えて,バイクの曲乗り,ウィングスーツによる滑空,スノボ,フリークライミングと種目が激増しているが,その一方で脚本が極めていい加減に劣化してしまっていた。それぞれ,アクションシーンは CG 一切なしで実写というのがうたい文句であり,非常に見応えがあったが,エンドロールにはちゃんと CG スタッフの名前もあったのが笑わされた。

ちなみに,映画の長さ 130 分の中で,何と最後の 13 分以上がエンドロールであった。全長の1割がエンドロールなどという映画は見たことがない。面白がって最後まで席を立たずに見てみたが,エンドロールの後にオマケ映像などがあるわけでもなく,ただただアクションシーンの撮影に協力したスタントマンやカメラマンなどの名前がひたすら続いていた。撮影地はアメリカをはじめ,フランス,インド,オーストリア,ベネズエラなどと世界各国に及び,非常に貴重なアクションシーンがこれでもかと盛り込まれていた。

特にサーフィンのシーンでは,10 年に一度というほどの大波に乗るシーンが圧巻で,スタントマンが大けがをしたとも伝わって来ている。また,ウィングスーツでの飛行シーンは,カメラマンが同じ格好で飛びながら追尾して撮影したそうで,90 回以上も飛んでいるという話である。さらに,ベネズエラにある落差 1,000m というエンジェルフォールの脇の垂直な崖をフリークライミングで登って行くことろなど,ため息が出るほど素晴らしいシーンの連続であった。映像の見事さは本当に文句の付けようがないのだが,それだけに脚本のマズさは頭を抱えたくなってしまった。

まず,謎の一団が実行不可能とも思えるミッションを何故続けて行くのかという理由があまりに非現実的であり,その実行に必要な巨額な経費については,大金持ちのスポンサーがいるということだけで片付けられてしまっていて,まるでお伽噺のようにリアリティが欠如していた。ミッションの達成の目的が地球を救うためだとか言いながら,鉱山をダイナマイトで爆破するとかいうのだから,もう何を言ってるのかが理解不能なレベルに陥っていたし,全てのミッションをクリアすれば神のような視点を持てるとかいう比叡山の千日回峰行みたいな話も出て来たのが笑えた。もっと笑えたのは,そのミッションに挑戦した先人がいて,それが何と日本人で,Ozaki Ono だという設定であった。名字が2つある名前は,まるでおぎはやぎを彷彿とさせた。しかも,その先人が地球を守るために捕鯨船に体当たりして行ったという話にはホントに爆笑をこらえるのに必死にならざるを得なかった。

配役もかなり問題があり,まず主役がキアヌとは似ても似つかぬ悪人顔で,行動が潜入捜査の範囲を大幅に逸脱し,むしろ悪人たちを率先して煽っていたような行動に出たのは全く説明がつかなかった。悪役陣もどれもひげ面のむさい連中で,誰が誰なのかの区別も面倒になるほどであった。いくら命知らずと言っても,ホントに命に何の未練もないような行動には全く共感できなかった。敵も味方も身体中入れ墨だらけであり,地球を大事にする前にまずテメーを大事にしたらどうなんだと思わざるを得なかった。音楽が結構聴かせどころをわきまえていい仕事をしていたのが唯一の救いであった。

演出は,各人物の描き分けを最初から放棄してしまっているような感があり,非常に不親切に思えた。また,途中で水が霧散してしまうために滝壺を持たないエンジェルフォールの滝壺に,主人公らがダイブするという話には開いた口が塞がらなかった。ギネスブックに載っているダイビングの世界記録は 60m 程度であるのに,滝壺のない 1,000m の滝からダイブして生き残れる訳がないだろう。恐らくこの映画は,全ての常識を捨てて馬鹿になり切って見なければ全く楽しめない映画なのに違いない。もう少し早く気付くべきだった。BD などが販売されたら,そのメイキングを見るのが最も面白いのかもという気がした。
(映像5+脚本2+役者3+音楽4+演出3)×4= 68 点。

アラカン