劇場公開日 2015年9月12日

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「たまには敷居の高い映画もいかがですか?」黒衣の刺客 ユキト@アマミヤさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0たまには敷居の高い映画もいかがですか?

2015年10月12日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

興奮

知的

難しい

ごめんなさい、この作品、ストーリーについてはサッパリ分からんかったです。えっ、これでカンヌ映画祭監督賞なの? 一般ピープルな僕では、あまりに敷居が高い作品だったかしらん? まあ、でも頑張って感想書いてみますね。
際立ってたのは、映像の美しさ、そして監督のセンスの良さ、なんですね。
アート系の映画を見慣れてる人にとってはいいかもしれないです。
いにしえの中国、その国土の美しい風景。そして時代劇としての最大の魅力である、舞台装置と衣装の華麗さはさすがです。日本や中国など、永い歴史を持つ国は、やはりその文化の奥深さを感じさせてくれますね。
キャメラの前に覆われた、薄いヴェール、絹織物のような質感、それを通して人物と舞台セットが映されます。
人物の隣には燭台があり、ろうそくの火が絹織物のヴェールを通して、
「ゆらっ、ゆらっ」
とするところなど、なんとも雰囲気がいいんですね。
だから、僕としては、この作品、意外なほど、不満はなかったんです。
上映中は結構、楽しませてもらいました。
ストーリー分かんなくても「まあ、そんなことはイイや」って思わせてくれるだけの美しい絵作り、監督の絵心に説得力があるんですよ。
この映画のいいとこはそこなんですよ。
「さすが」って感心してました。
そんで、映画館から自宅へ帰って、改めて、本作のオフィシャルサイトを見てみました。
ここで、ようやく、「ああ、そういうストーリーだったのね」と納得。
物語は現在の中国の唐時代が舞台になってます。
隠娘(インニャンと読むらしい。演じるのは女優のスー・チーさん)は、13年間、親元を離れて、道士に預けられていました。
この道士というのは、日本で言えば、まあ、お坊さまということですかね。辞書で調べると、道教の修行を納めた専門家らしいです。道教の儀式なんかも執り行います。
さて、隠娘は13年預けられていた間に、剣術や武術を叩き込まれ、なんと親が望みもしない、暗殺者、女刺客として育てられるのです。
さて、時代背景なんですが、もともと朝廷の家来だった軍事組織が、やがてその武力にモノを言わせて、勝手にある地域を治め出すんですな。日本で言えば、平安時代に起こった武士勢力の台頭ですね。どこの国もやっぱり、人間、やることは同じなんですね。
やはり地位や権力、金と名声という「欲」が人間を突き動かすのです。
で、物語の舞台となる地域一帯を治める人物。これが暴君と言われる田季安(ティエン・ジィアン/演じるのはチェン・チェン)
女刺客、隠娘のターゲットはこの田季安です。ところが、もともと隠娘の許婚はなんと田季安だったのです。田季安を仕留めにかかる隠娘なんですが、どうしても、もと許婚の相手にトドメを刺すことができない。
刺客として育てられ、「殺す相手に情けは要らない」と体に染み込ませてきたはずなのに。なぜか自分の存在そのものに、疑問を抱き始める隠娘。
そんなとき彼女は日本からの遣唐使で、鏡磨きを仕事とする青年(妻夫木聡)と出会うのです……。
この作品、オープニングシーンでの、白樺林の中に佇む隠娘を映し出したときから、アート系に振った映画だよね、っと直感しましたが。まさか、ここまで凝った絵を作ってくるとは思いませんでした。特に、険しくそびえ立つ中国の山の頂。そこに立つ隠娘と武術の女性師匠のシーン。
息を呑みましたよ。
キャメラは遠くから二人を狙います。足元から霧が立ち込めてくる。そしてセリフ。その直後、圧倒的な量の霧が二人を山ごと飲み込んでしまうのです。
まるで、これは黒澤映画。
「あの雲、邪魔だ」で、撮影現場は天気待ち。
「あの家、邪魔だなぁ」で、映画に関係のない人が住んでる家を、本当に取り壊しちゃう。住人には映画のために引越ししてもらう。そんな数々の黒澤伝説がありますが、ホウ・シャオシェン監督も、やっぱり、こだわってますねぇ~。
きっとこのワンシーンを撮るために、どれだけのスタッフが、どれだけ「霧待ち」をしたのか? あるいは山の麓にフタッフを待機させ、低く”たゆたう”霧を巨大なファンで山の頂上へ、送り込んだのでしょうか?
だったら、その巨大ファンは、いったい何個用意したんだろうか? といろんな想像ができてしまうのです。
まあ、本作は見る人を選ぶのは確かです。鑑賞するにはかなりハードル高い作品なんですが、映画マニア、ホウ・シャオシェン監督ファンの方なら、楽しめるんではないでしょうか。

ユキト@アマミヤ