劇場公開日 2014年1月31日

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「まあでも人間てよくわからんよね、って」アメリカン・ハッスル 鰐さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5まあでも人間てよくわからんよね、って

2014年2月1日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

幸せ

「人は自分すらも騙せる」と劇中でも語っているように、この映画に出てくる登場人物は全員他人にウソをつくと同時に自分をも騙している。そもそもはじまりからして、主人公が鏡を見ながらカツラをつけるシーン。
 カツラは「ハゲた自分」を糊塗して見栄を張るためにつけるものだけれど、誰に対して見栄をはるか、ウソをつく最大の相手は誰かといえば、自分自身だ。そして、そのウソを自覚しながらつけなければいけない。カツラと鏡はそういうとりあわせだ。自覚しているからこそ、ブラッドリーにカツラを飛ばされるとキレる。なぜなら、主人公には生の自分と向き合う度胸がない。
 彼は眼をそらしつづける。自分の犯罪から、自分の家庭から、自分のほんとうの気持ちから。逃げ続ける。
 ブラッドリー・クーパー演じるFBI捜査官も逃げている。彼の異様なまでの出世欲は、せぜこましい実家のしがらみから逃げたいその一心に由来する。数畳一間の小さいお家に三世代同居するサラリーマン、そんなしょぼい小市民が自分の末路なのだろうか? もっといい生活、いい女がいるはずではないのか?
 米国人なのに英国なまりで喋るエイミー・アダムスあるもそうだ。ふたりの男を同時に愛していて、それがゆえにどちらを愛しているのか自分でもわからない。だから、どちらも傷つけてしまう。
 主人公の奥さんのジェニファー・ローレンス。一見バカまるだしのセレブ妻タイプ(実際に電子レンジにアルミホイルぶちこんでぶっ壊したりする)だが、実は自分がどういう立場にあるのかよく自覚している。
 映画全体を通したどうにもつかみづらい、悪く言えば胡乱な印象は、そんな彼らの複雑な心理模様から生じる。他のミステリー映画や詐欺師映画なら、ラストで物語の謎から人物関係からすべてを快刀乱麻に断ち切ってくれるけれど、本作にそんなものはない。
 見た目「それ」っぽいことは起こる。だが、「それ」は物語全体を解くためではなくて、主人公を救うために用意された、あまりにささやかなイベントだ。同時に最重要なイベントでもある。
 嘘つきだらけの主人公の周囲で、たったひとり無垢で正直だった人物。主人公が唯一ウソを貫き通せなかった人物。その人物に対して償うことで、主人公は自分を含めた全員の嘘を償おうとしたんではないかな。

鰐