家路 : 映画評論・批評

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家路

劇場公開日 2014年3月1日
2014年2月18日更新 2014年3月1日より新宿ピカデリーほかにてロードショー

あらためて田中裕子という女優の凄みに圧倒される

長年、TVのドキュメンタリストとしてキャリアを積んできた久保田直監督の初めての劇映画である。東日本大震災後の福島にオール・ロケーションを試みているが、新緑が目に沁みる富岡町、川内村の美しい自然の風景が、警戒区域に指定された空間であることに慄然となる。

原発事故で土地を失い、継母・登美子田中裕子)、妻の美佐(安藤サクラ)、娘と仮設住宅に暮らす長男の総一(内野聖陽)の家族と、20年前に故郷を追われ、今は無人となった実家に住んでいる二男の次郎(松山ケンイチ)が対比される。

原発事故で莫大な借金を抱えて自殺する農民、デリヘルで働く妻に苛立ちながらも、客を装いモーテルに呼んでしまう総一の皮肉なエピソードなどを点描しつつ、映画は次第に離れ離れだった次郎の母恋い物語というロマネスクで古典的な主題を明瞭にしていく。

黙々と農作業を営む次郎の日常をドキュメンタリー・タッチでとらえたシーンが秀逸で、松山ケンイチという俳優は土や自然との親和性が際立っていることを実感させる。

一方で、痴ほうの兆候が現われている登美子へと徐々に焦点が絞られる。仮設住宅の前で、帰るべき家が不明となり、登美子が必死に孫の名前を叫ぶシーンには、震災後の日常の不条理な断面が露わにされたような異様な迫力が感じられる。

夜間に徘徊し、探しに来た美佐と路上で缶ビール片手に延々と真情を吐露するシーンもひとりの女性の屈曲に富む半生が鮮やかに浮かび上がり、あらためて田中裕子という女優の凄みに圧倒される。

ラスト、再会した登美子と次郎は禁止区域の田んぼで田植えを始めるが、そのユートピアのような光景が、きわめて自然に受け止められるのも、絶望的な現実の果てに希望の兆しを見出そうとする作り手の真摯な思いが表白されているからであり、そのリアリティは、田中裕子松山ケンイチの巧まざる演技によって支えられているのだ。

高崎俊夫

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