劇場公開日 2013年10月19日

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「凄まじい切なさ」蠢動 しゅんどう トプ・ガバチョさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0凄まじい切なさ

2013年10月24日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

興奮

 この『蠢動 -しゅんどう-』と言う作品の原型は82年に監督の三上康雄さんがご自身で主演された16mm版が作られていて、そこでは重要な役回りの共演者として、「切られ役俳優」として名高い西田良さんが出演していました。しかし、この映画は劇場で公開されることはなく、以前から個人的に「観てみたい!」と心に思っていた作品だったんです。それが最初の撮影から20年以上経って時代劇も衰退した今、若林豪や目黒祐樹、平岳大、栗塚旭ら豪華キャストで本格的に作り直されたのですから、期待度は観る前からかなり高かったです。
 内容はさすがにここでは詳しく述べられませんが、一言で言って「爆発しそうな切なさ」を感じましたね。重々しい雰囲気の中で、若林豪のちょっとした表情の変化だけで全てを語るような演技や、威厳に満ちた存在感と厳しさを表した目黒祐樹らベテラン俳優陣。対する若手俳優陣はちょっと取って付けたような台詞回しのように聞こえることもありましたが、基本的に今現在の言葉で話しているので、そう感じるのかも知れませんね。ただ、そんな中でも平岳大の容姿はその太い首周りときっちり鍛え上げられた体ともども、非常に素晴らしかったですね。正に適役でした。当然のことながら、顔付きは父親である平幹二朗に良く似ていますが、何か少し前の渡辺謙を感じさせるパワフルさと同時に、若かりし頃の片岡孝夫の影のある雰囲気も感じられました。無表情の中に何かを伝える演技ができるのは、さすがだなと思いましたね。
 撮影も凝っていて、やたら派手な色合いが多い今の映画に対して、全て淡い色や自然の色を大切にしていて、好感が持てました。また、フィルムにしてもデジタルにしても、とにかく感度が高くなった現代の撮影において、しっかりバックをぼかして画像を立体的描写にして印象を深めたり、反対にバックと人物を俯瞰するように離れたところから中望遠で撮ってそれらを溶け込ませたり、逆に背景ともども人物を長い望遠レンズでアップさせて迫力を付けたりと、構図も含めて観ていて全く飽きませんでしたね。
 時代劇の肝とも言うべき殺陣ですが、これは昔の東映風の優雅なものではなく、とてもリアルな雰囲気の力強いものでした。かなり役者さん達も体に青あざを作っていたかも知れませんが、特に最後の雪上の大立ち回りはかなり大変だったでしょう。役者さん達が全力を振り絞って演技することが、死と隣り合わせで形振り構わず相手を倒そうとする雰囲気を醸し出し、それがリアルな映像に結び付いたのでしょうね。殺陣は昔からその名を知られた久世竜一門を今受け継いでいる久世浩。なるほど、リアルな立ち回りはここから来るんですね。
 この映画ではテーマ音楽や挿入曲の類は一切使われておりません。エンディングで陣太鼓が長々とその鼓動を響かせますが、この太鼓の音が劇中効果的に使われていました。こんな点も「骨太時代劇」を感じさせる演出だと思います。
 この『蠢動 -しゅんどう-』を観終わった時に、何とも言いようのない激しい切なさを感じましたが、どの登場人物も「悪」ではないのがそんな気分にさせるのでしょうか。敢えて言うなら家老の用人や、もう1人の主人公「香川」の剣術のライバルの藩士が悪役と言えないこともないですが、それも私利私欲からの行動ではないので、やはり結局誰もが悪いのではありません。そうせざるを得ない「武士道」と言う彼らの生きた世の仕組みが「悪」となっているので、怒りをぶつけたくてもぶつける実体がない苦しさ虚しさはかなさが絶妙に演出されています。観終わっても色々考えさせられる映画…。素晴らしいじゃないですか! こうした時代劇映画がもっともっと創られることを願いたいですね。

トプ・ガバチョ