劇場公開日 2013年5月25日

「ずうっと音のない」三姉妹 雲南の子 いずるさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0ずうっと音のない

2013年6月19日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

知的

ナレーションは一切入らず、映像だけで表現しようとした意欲作品。
映像だけで表現する、そうするからこそ映像である意味がある、と誰か偉い映画の人が言ってました。しかし実行には中々勇気がいるこの格言。

聞こえるのは高地を吹き上がる風の音、夕食後に見るテレビドラマの音、豚・羊・鶏・犬の鳴き声、急斜面を上るカメラマンの荒い息遣い、水道から滴って撥ねる飛沫。そして遊びまわる妹たちの声。
日は毎日暮れては昇り暮れては昇り、同じような日々が続いて行きます。
雄大と言ってしまえばそれで終わりの景色は、とても人間の足では脱出できないほど広く、どこまで行っても山、高地、ジャガイモ畑。
発狂しそう。

出稼ぎに出ている父と、失踪してしまった母。
世話になるのは伯母の家で、やっぱり肩身の狭い思いをしているようです。
伯母の家で物を食べるとき、一番上の姉はずっと立ちっぱなし。下の妹たちは壁際に座り、三人分の椅子はない。
家族ではない、ということが象徴されているようで、胸が締め付けられます。
長女はけっこうどこの家でも立ったまま食べているので癖なのかもしれませんが。

三姉妹で一緒にいるうちは、それでもまだ耐えられる。
一度帰ってきた父は再び都会へ出稼ぎに行きます。その際に、下のふたりの妹を連れていってしまいます。暗い家に一人きりになる。
別の家に住んでいる爺ちゃんが食事の面倒を見る、と父に約束してくれたので、夜は一人ではない。夜に料理をしにきてくれます。
だけど朝起きて、一人きりで電気のない暗がりで、昨日作った冷めたジャガイモの煮っ転がしか何かを食べている時の孤独感ったら……
映像に恣意的な音がないので余計に感じる。

いずる