劇場公開日 2012年10月27日

流 ながれのレビュー・感想・評価

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4.5ダムの生態系への影響

2020年2月20日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

ようやく観る機会を得た。いや~面白かった。
とはいえ、「川虫」が気持ち悪いと感じる人には、お勧めしない・・・。

舞台は、相模川の支流の中津川。全長が約30kmの平凡な川である。
神奈川といっても西部なので、勾配のある山あいから、人が住む平坦な地域へ流れて行くという、都市近郊の“境界”的な流域だ。
よって、日本全国に当てはまる普遍性があり、単なる“ご当地もの”ではない。
(なお「解説」には書き漏らしているが、ダム上流は清川村であり、キャンプ場がある。ダム下流が、愛川町と厚木市。)

アウトラインは、このページの「解説」の通り。
ダムの生態系への影響を懸念する、二人の老人が立ち上がる。一人は「植物」、一人は「水生昆虫」を心配して。
取材は2007年まで続いているが、宮ケ瀬ダムが完成(2000年)して間もない、2001年の暮れから2002年の映像がメインである。

ダムや砂防工事、そして外来種で、「カワラノギク」の生育場所は脅かされている。
吉井さんは、「邪道だ」とぼやきつつ、絶滅したら取り返しがつかないと、人工的な繁殖を試みる。
正直なところ、自分にはただのキク科の“雑草”にしか見えないが(笑)、「愛川町」の町花にしても良いというくらいの、絶滅危惧種らしい。
秋の花が少ない時期には、チョウやハチが蜜を求めてやってくる。

水生昆虫は、環境の変化に敏感で、水質の「指標生物」と言われる。
「カゲロウ」は環境に適応して、さまざまな姿を取る。「トビケラ」は糸を吐いて巣を作ったり、小石を身にまとう。「カワゲラ」は、大きな足で這って他の昆虫を捕食する。
ダムによって、川の自然な流れが断ち切られた時、彼らはどうなってしまうのだろうか?
齋藤さんは、約40年ぶりに本格的な調査を開始する。
そして、ダムの“下流側”では、明瞭な生態系の変化が判明する。
だがその一方で、“上流側”ではダムの影響は少ないはずだと、“旧友”の希少種を探し求める・・・。

しかし、なんとその年(2002年)、“激甚災害”に指定されたほどの「超大型台風21号」が東日本を襲い、ダムから放流された大量の水は、生き物を押し流してしまう・・・。
果たして、「カワラノギク」や水生昆虫は大丈夫だろうか!?

ダムができたって、水生昆虫がいなくなるわけではないし、河原の雑草が消えるわけでもない。
よく見れば、ある「種」は絶滅し、多様性が失われ、“ダム生態系”に取って代わられているのだが。
しかし、表面的には何も起きない。だから、人々は何も気付かない。
「最近、あの生き物を見かけなくなったな」と思っても、別に困らない。人間社会にとっては、「治水」が最優先だ・・・。
そこが恐ろしい。

なお、ダムということを除いても、いろいろとサイエンスの勉強になる楽しい作品だ。
水生昆虫の水中の姿だけでなく、「カワゲラ」の羽化のようすをじっくりと見せてくれる。
「カワラノギク」は一本立ちするだけでなく、“ロゼット”という生き延び方もあって、多様な成長形態で種を存続させている。
水生昆虫は、大部分を水中で過ごし、成虫になったら交尾をしてすぐに死んでしまう。
「カワラノギク」は多年草であるが、いったん花を付けたら、後は枯れるだけだ。
動物と植物の違いこそあれ、そういう“はかなさ”に共通点のあるところが面白い。

本作品は、基本的にはサイエンスものである。環境問題ではあるが、ダムの弊害を社会的に告発する作品ではない。
また、“人間”よりは“生き物”がメインなので、2019年公開の「東京干潟」よりは「蟹の惑星」に近い。
“生態系”の変化や危機という深刻なテーマではあるものの、村上監督のキャラであろうか、雰囲気は“ユルい”(笑)。
肩肘を張らずに、楽しんで観ることができる作品だと思う。

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Imperator