流 ながれ

劇場公開日:

流 ながれ

解説

神奈川県の中津川で生物の保護と研究に取り組む2人の男性の姿を10年間にわたり追い続けたドキュメンタリー。2000年、神奈川県愛川町と厚木市を流れる中津川に、首都圏最大級の水がめ「宮ケ瀬ダム」が完成。しかし、上流にダムができたことで川に生息する生き物たちに影響があらわれはじめる。愛川町に住む吉江啓蔵さんは、関東地方の限られた河川にしかみられない絶滅危惧種のカワラノギクを保護するため活動を始め、愛川中学校の元教師で、長らく中津川の水生昆虫調査を行っていた齋藤知一さんも、ダムの完成を契機に水生昆虫の調査を再開。カワラノギクは吉江さんの献身的な世話のもとで命を吹き返していき、齋藤さんの調査からは、水生昆虫の知られざる生態やダムの影響で起こった川の環境変化が明らかになっていく。

2012年製作/85分/日本
劇場公開日:2012年10月27日

スタッフ・キャスト

監督
製作
能勢広
撮影
能勢広
編集
村上浩康
音楽
芳晴
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映画レビュー

4.5ダムの生態系への影響

2020年2月20日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

ようやく観る機会を得た。いや~面白かった。
とはいえ、「川虫」が気持ち悪いと感じる人には、お勧めしない・・・。

舞台は、相模川の支流の中津川。全長が約30kmの平凡な川である。
神奈川といっても西部なので、勾配のある山あいから、人が住む平坦な地域へ流れて行くという、都市近郊の“境界”的な流域だ。
よって、日本全国に当てはまる普遍性があり、単なる“ご当地もの”ではない。
(なお「解説」には書き漏らしているが、ダム上流は清川村であり、キャンプ場がある。ダム下流が、愛川町と厚木市。)

アウトラインは、このページの「解説」の通り。
ダムの生態系への影響を懸念する、二人の老人が立ち上がる。一人は「植物」、一人は「水生昆虫」を心配して。
取材は2007年まで続いているが、宮ケ瀬ダムが完成(2000年)して間もない、2001年の暮れから2002年の映像がメインである。

ダムや砂防工事、そして外来種で、「カワラノギク」の生育場所は脅かされている。
吉井さんは、「邪道だ」とぼやきつつ、絶滅したら取り返しがつかないと、人工的な繁殖を試みる。
正直なところ、自分にはただのキク科の“雑草”にしか見えないが(笑)、「愛川町」の町花にしても良いというくらいの、絶滅危惧種らしい。
秋の花が少ない時期には、チョウやハチが蜜を求めてやってくる。

水生昆虫は、環境の変化に敏感で、水質の「指標生物」と言われる。
「カゲロウ」は環境に適応して、さまざまな姿を取る。「トビケラ」は糸を吐いて巣を作ったり、小石を身にまとう。「カワゲラ」は、大きな足で這って他の昆虫を捕食する。
ダムによって、川の自然な流れが断ち切られた時、彼らはどうなってしまうのだろうか?
齋藤さんは、約40年ぶりに本格的な調査を開始する。
そして、ダムの“下流側”では、明瞭な生態系の変化が判明する。
だがその一方で、“上流側”ではダムの影響は少ないはずだと、“旧友”の希少種を探し求める・・・。

しかし、なんとその年(2002年)、“激甚災害”に指定されたほどの「超大型台風21号」が東日本を襲い、ダムから放流された大量の水は、生き物を押し流してしまう・・・。
果たして、「カワラノギク」や水生昆虫は大丈夫だろうか!?

ダムができたって、水生昆虫がいなくなるわけではないし、河原の雑草が消えるわけでもない。
よく見れば、ある「種」は絶滅し、多様性が失われ、“ダム生態系”に取って代わられているのだが。
しかし、表面的には何も起きない。だから、人々は何も気付かない。
「最近、あの生き物を見かけなくなったな」と思っても、別に困らない。人間社会にとっては、「治水」が最優先だ・・・。
そこが恐ろしい。

なお、ダムということを除いても、いろいろとサイエンスの勉強になる楽しい作品だ。
水生昆虫の水中の姿だけでなく、「カワゲラ」の羽化のようすをじっくりと見せてくれる。
「カワラノギク」は一本立ちするだけでなく、“ロゼット”という生き延び方もあって、多様な成長形態で種を存続させている。
水生昆虫は、大部分を水中で過ごし、成虫になったら交尾をしてすぐに死んでしまう。
「カワラノギク」は多年草であるが、いったん花を付けたら、後は枯れるだけだ。
動物と植物の違いこそあれ、そういう“はかなさ”に共通点のあるところが面白い。

本作品は、基本的にはサイエンスものである。環境問題ではあるが、ダムの弊害を社会的に告発する作品ではない。
また、“人間”よりは“生き物”がメインなので、2019年公開の「東京干潟」よりは「蟹の惑星」に近い。
“生態系”の変化や危機という深刻なテーマではあるものの、村上監督のキャラであろうか、雰囲気は“ユルい”(笑)。
肩肘を張らずに、楽しんで観ることができる作品だと思う。

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