劇場公開日 2012年3月17日

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シネマ歌舞伎 高野聖 : インタビュー

2012年3月16日更新
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坂東玉三郎、“深化”するシネマ歌舞伎へのほとばしる愛

歌舞伎俳優の坂東玉三郎が演出、出演し、自ら編集した泉鏡花原作の「シネマ歌舞伎 高野聖」が完成(3月17日公開)。シネマ歌舞伎は、歌舞伎の舞台公演を収録し、映画館で上映する試み。本作は、舞台上で撮影した映像にロケーション素材を編集で加える映画的手法を取り入れ、シネマ歌舞伎を一段と深化させた。「鏡花先生の世界は感性で楽しんでほしい」という玉三郎。演出家、俳優として、鏡花戯曲の魅力、ヒロインの演じ方、映画との関わりを聞いた。(取材・文/朝田富次)

――今回シネマになった「高野聖」は、奥行きや距離感、表情のリアルさ、アップもあるカメラワークで、舞台の「高野聖」とは印象が異なり、新しい作品に触れた思いがします。

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「実写を入れた効果でしょうね。『京鹿子娘二人道成寺』(2007)の頃から舞台を記録にとどめるために撮るだけではもったいない、実写も入れて舞台を完結させたいと思うようになりました。東京の歌舞伎座のあと、福岡の博多座で『高野聖』を公演(11)した際も舞台に実写を入れる試みをしていますが、今回シネマ歌舞伎にするにあたり、新たに撮影もしました。撮影の部分をどう編集するかは十河(壮吉)監督と事前に相談した上、編集室にこもってラッシュから自分ですべて編集しました。作品の統一感の確保の上でも、編集を一人でしたことは良かったと思いました」

「実写を3分ほど挿入しただけで、修行僧の宗朝がヘビやヒルの出る山道を抜けて無事な所に出たという、舞台では表現が難しい距離感を出せました。舞台上の撮影は観客のいない状態の博多座で、いろんな角度から撮っていますが、シネマらしく“寄り”の手法を思い切り使いました。宗朝(中村獅童)と彼に宿を貸す女(玉三郎)との岩場の湯浴みシーンは皆さんご覧になりたいでしょうし(笑)。暗い舞台ではどうしても曖昧になる所も“寄り”でリアルになり、セリフも舞台ではどうしても様式化されますが、映像ではリアルな感じが出ています」

――玉三郎さんはすでに映画の「外科室」「天守物語」のメガホンもとっておられますが、映像の分野でも新しい世界を開拓しようという……

「開拓なんてそんな思いはないです。必要に応じてやってきてこうなっただけですが、積んだ経験や技術は今後の作品に生かしていきたいです。シネマ歌舞伎は約7年の間に、出演した『ふるあめりかに袖はぬらさじ』などで編集にも携わり、今年公開された『天守物語』『海神別荘』では演出も担当しましたから。これからも歌舞伎の良い舞台をお見せし、お客さまの厚いご支持があれば映像に残していきたい、そんな気持ちでいるだけです」

――物語は幻想的、セリフは詩のよう、登場人物の解釈も一筋縄でいかない。そんな定評のある鏡花ですが、「日本橋」のお孝などを新派の舞台で演じ、「天守物語」の富姫、「海神別荘」の美女、そして「高野聖」の女を歌舞伎でされています。鏡花の戯曲、鏡花の描く女性とどのように向き合ってこられたのでしょうか。

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「鏡花先生は感覚で書いていらっしゃる。飛躍する箇所もあって、学術的な知識だけでは読み取れない部分もあると思います。私は10歳ぐらいの時、父(守田勘弥)や中村歌右衛門さんが歌舞伎で初めて演じた『天守物語』を見ていますが、その時に感じたように鏡花先生の世界は感性で受け止めて楽しむ方がいいのではないかと思います」

「幸か不幸か、俳優は作品から読み取った人物を自分の体に入れなければなりません。『高野聖』の女の場合なら、男を誘惑して飽きたら馬や猿に変えてしまう魔性の人間とも言えますし、身体の不自由な青年を介抱する癒しの女性とも解釈できます。いくらでもイメージできますが、実際に演じる者としては、現実にしていかなければなりません。決められるものと、決められないものの線をはっきり引かないと役を作ることはできないのです。私には、この女に触れたら、様々な現象が出てくるリトマス試験紙のような存在に思えます」

「鏡花先生の描く人達は潔癖さで共通していると思います。自分が理想とする生き方を、女性を借りて書いておられるのです。ただ年代によって描き方に違いがあり、晩年の作品『日本橋』のお考などは輪郭の明確な人物ですが、『高野聖』は“若書き”の作品で、主人公はどうとでも想像できる女性です」

「作品自体が幻想の世界ですし、誰が本当のことを言っているのかも分からない。女の身の上を語る親仁(中村歌六)の話も嘘かも知れないし、宗朝がどうしたとか、物語はどう進んでいくとか、そこを追究しても鏡花先生の世界とは別の話になってしまいます。主人公の女は人間の煩悩を伝えるための作者の道具なんだ、と演じた私にはそう感じます」

「なぜ鏡花戯曲なのかと問われると、近代の作家の中で何度読み返しても面白いのが鏡花先生。お楽しみ頂けるのなら、鏡花先生のお芝居なんかどうですか、とお勧めしたいです」

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インタビュー2 ~坂東玉三郎、“深化”するシネマ歌舞伎へのほとばしる愛(2/2)
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