劇場公開日 2012年5月12日

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「今後のインド映画は、CGによる驚異的な描写を武器に世界的にヒットしそうな作品を続々送り出してくる予感がしました」ロボット 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0今後のインド映画は、CGによる驚異的な描写を武器に世界的にヒットしそうな作品を続々送り出してくる予感がしました

2012年5月2日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 歌とダンスのインド映画の伝統も残しつつ、IT産業の隆盛著しいインドの技術革新が映像分野にまで及んでいることを印象づけたオープニングでした。
 オープニング・クレジットでは、本編で登場するロボットが組み立てられるところを精巧に再現していきます。その質感、緻密さはハリウッド映画と遜色ないレベル。本作も既に世界100億円の大ヒット。今後のインド映画は、CGによる驚異的な描写を武器に世界的にヒットしそうな作品を続々送り出してくる予感がしました。

 ロボットに感情を与えることで、暴発していくのはこの手のジャンヌのお決まりかと思います。でもそこはインド映画、展開の仕方が半端ではありませんでした。
 前半は、ヒロインを守ろうとするヒーロー映画もののタッチ。ところが博士に嫉妬していた悪徳工学博士の手によって殺人ロボットに改造された後半では、自分のダミーロボットを製作していき、まるでターミネイターのように人類に挑戦するロボット軍団の頭目に納まっていくのです。

 バシー博士が開発したロボットのチッティは、ちょっと目を離すと、警官に怪我を負わせたり、やりたい放題。まぁ、その程度ならかわいいのものです。ところが博士の恋人のバシー博士の恋人サナが暴漢に襲われると、一躍自己の持つ超人的な能力を発揮。列車の車内でバッタとバッタとなぎ倒していくのです。唯一の欠点は、バッテリーチャージが切れること。でも自分で電源を見つけて、再びサナの救出に向かうところなんぞ、なかなかのタフガイぶりを見せてくれたのです。

 でも、この大暴れがたたって、バシー博士が目指すインド軍への採用は見送りに。その影には、博士に嫉妬していた悪徳工学博士の妨害がありました。
 汚名挽回とばかり火災現場で救助活動にチッティは大活躍したものの、最後の裸の少女を裸のままで救出したことが非難の対象とされてしまいます。ロボットのチッティにとって人間の羞恥心など理解しようにもできなかったのです。
 裸の少女が救出されて事故死してしまうシーンは、いささか強引な展開でした、またCGも荒かったです。全体で3時間の長編を日本公開に向けて半分にした結果、このシーンのほかかなり飛び飛びになってしまったシーンがありとても残念です。DVDでは全編の公開を望みたいですね。

 博士はチッティに人間の感情を与えようと様々な教育に取り組みます。この辺のアプローチはなかなか東洋哲学的で、さすがはインド映画だなと思えました。特に博士が重視したのは、チッティに無常観を教えることだったのです。人の死と苦しみを分かられるために、仏典を記憶させたり、墓場や葬儀に参加させたりしていました。
 本作では、チッティの成長を通じて、命とは、人間の尊厳とは陰で問いかけているようにも思えます。

 こうして、感情を得たチッティはこともあろうにサナに恋をしてしまいます。博士の理想的な姿として仕上げたチッティはサナの機嫌を取ることも上手。博士は次第に自分が作った自分の分身であるロボットに嫉妬してしまうところが、なかなかユーモラスでした。サナに告白するものの振られて落ち込むチッティには、ちょっと同情。観客の目にも単なるロボット以上の存在としてチッティに感情移入してしまうことでしょう。

 後半の展開は先読み不能の怒濤の展開となります。恋敵となったチッティは博士の手で破壊されるものの、悪徳工学博士の手で殺人バージョンチップを埋め込まれて復活。チッティは、博士への復讐と、サナを手に入れるために手当たり次第に破壊し、警察や軍隊を殺戮し始めます。当初は単独だったチッティでしたが、悪徳工学博士の研究施設で仲間を量産。大勢の分身をくみ上げて、龍となったり高いタワーとなったり、巨大なロボットになったり自在に変形してインド国軍を翻弄します。
 このへんのぶっ飛び方は派手なハリウッド映画もしのぐ描写であり、さすがはインド人の考えることはひと味違うものだと感心しましたね。とにかくラスト40分のアクションは必見です。そして、チッテイの暴走を止める博士の知略に満ちた対応も見物でした。

 博士役とチッティの2バージョンの3役を演じ分けたラジニカーントの演技力は凄いと思います。全く別人のように画面に写っていました。演技だけでなく、『ムトゥ踊るマハラジャ』で注目されたダンスパフォーマンスもきっちり見せてくれます。このダンス&ミュージックも伝統的なインド映画のそれではなく、『スリムドック$ミリオネア』でアカデミー作曲賞を受賞した天才ミュージシャン、A.R.ラフマーンのノリノリのテクノ
サウンドにのせて繰り広げられるところがポイント。金銀輝くメタリックなダンスシーンがいかにも近未来のダンスパフォーマンスを感じさせてくれました。
 さらにサナ役のアイシュワリヤー・ラーイも1994年のミスワールドに輝いた存在だけに、なかなかセクシーで今後のワールドワイドな活躍が期待できそうです。

 とにかくインド映画のイメージがガラリと変わる、目からうろこ的な作品でした。

流山の小地蔵