劇場公開日 2012年5月12日

  • 予告編を見る

ポテチ : インタビュー

2012年5月9日更新
画像1

濱田岳「ポテチ」で紡ぐ仙台への思い 中村義洋監督との強固な絆

宮城・仙台を舞台とする数々のヒット作を送り出してきた作家、伊坂幸太郎と中村義洋監督のタッグが再び実現した。5月12日に全国で公開される「ポテチ」は、“復興の後押しをしたい”という思いの下に製作された、オール仙台ロケの作品。主演を務めるのは、唯一無二の存在感で注目を集め続ける俳優・濱田岳。“伊坂×中村作品の象徴”と称されることも多い濱田に、作品について、そして強い信頼関係で結ばれた中村監督への思いを聞いた。(取材・文・写真/奥浜有冴)

画像2

本作は、伊坂氏が手がけた13冊目の中短編集「フィッシュストーリー」所収の同名小説が原作。仙台で生まれ育った2人の青年、プロ野球のスター選手・尾崎(阿部亮平)と、空き巣を生業(なりわい)とする今村(濱田)。まったく同じ生年月日でありながら、対照的な人生を歩んでいた。今村はあるとき、意外な事実を知る。奇妙な運命の流れに導かれ、互いに引き寄せられていく2人。家族や恋人、友人を思う温かな感情が、独特な切り口で描かれている。

「自分たちにできることは、今まで通り魅力的な作品をつくること」と、復興への向き合い方をまっすぐな目で語る濱田。仙台へは撮影前から何度か足を運び、その度に製作スタッフたちと思いを交わしてきた。「『ポテチ』のチームはみんな気持ちがひとつでした。それぞれが考え抜いた結果、『やっぱり僕らには面白い映画をつくることしかないね』という答えにたどり着いたんです」。

そんな強い思いが集まり、つくられていった「ポテチ」。濱田はとりわけ中村監督との間には、上下という関係だけでなく“同志”のような信頼も感じていると明かす。「監督とは言葉を交わさなくても理解し合える部分があって。俳優が、監督というポジションの人と親しくなり過ぎることを、良しとしない考え方もあるかもしれない。でも僕と中村監督の場合、マイナス面は感じません。楽しい友人のようであり、最も厳しい存在でもある。その両側面が同居しているんです。作品を重ねるごとに僕の人となりをどんどん理解してもらえるんですが、比例して、僕の芝居へ求めることの幅が広がっているように感じます。当然、最も緊張する監督でもありますね」。

画像3

ふだん、セリフに関する細かい話し合いもしないという。ただ今回は、濱田から中村監督へ意見を求めたシーンがただひとつあった。母の理想とかけ離れた、ふがいない自分を申し訳なく感じている今村が(唐突に)あることを母へ問いかける、さりげないが印象的な場面だ。物語全体の中で強い意味を持つ部分でもある。「なんでこんなこと聞くんだろうと。どういう気持ちで発すればいいのかわかりませんでした」。

中村監督からの返答は、たったひと言「今村はバカなんだよ」だった。今村というキャラクターは、普通の青年ならためらいそうなことも、ぽろりと口に出してしまう、少し変わった性格の持ち主。「言われた瞬間『あ、そうだった』とすごくスッキリしたんです。もちろん“バカ”というのは、かみ砕いて説明するために用いた例え言葉。落とす意味じゃなく、監督が僕にわかりやすく伝えるために選んだ言葉だったんですけど、互いに築いてきた関係性があるから、そのひと言でいろんな意味が理解できたのだと思っています」。

物語の終盤で野球場のシーンが登場するが、そこに映る観客席には大勢のエキストラの存在がある。ボランティアで集まった地元の人々だ。いつもと変わらない笑顔と頼もしい協力体制に、本当に助けられたと濱田は感謝を示す。そしてその撮影の際、思いがけない体験をしたことを吐露した。「外野に走っていく場面で、笑ってはしゃぐ演技をしようと決めていたところがあったんです。でも実際に撮り始めたら、なぜだか涙がポロポロ出てきて……、自分でも予想外のことで驚きました」。観客席に向かって立ち、目の前に広がる光景を目にした瞬間、込み上げる何かがあったという。その状況や居合わせた人の存在すべてが、見えない力となって自分に影響していたのかもしれない、と思いをめぐらせる。「あのとき参加してくれた方々のおかげで、100%の力を120%にまでぐっと引き上げられた感覚です。こんなことは初めてだったので、不思議でした」。

画像4

さらに共演者についても、出会いに恵まれたと感慨深げに振り返る。今村が尊敬する空き巣・黒澤を演じるのは大森南朋。今村同様、自分なりのテンポで日々の暮らしを積み重ねていく、物静かだが色の濃いキャラクターだ。しっかりと共演するのは初めてという濱田だが、「交流は以前からあったので安心して胸を借りて芝居に臨めました。突飛な行動をしている訳じゃないのにとってもユニークで、でも格好いい素敵な役ですよね」と笑顔で語る。

今村の彼女・若葉役には期待の若手女優、木村文乃。「今村と黒澤にはさまれて、1人だけ普通の空気感で話さなきゃいけない役だったので、大変だろうなと思いました(笑)。でも若葉がテンポを引き戻してくれるから、ありがたかったですね」。台本を読んだ当初からイメージにぴったりだと感じたと明かすのは、母親を演じた石田えり。「『そうそう! 今村の母ちゃんはこうだよな』と思う瞬間が何度もあって。本物の母ちゃんを見るような気持ちになったのを覚えています」。

完成後、濱田は中村監督から印象深いメッセージをもらったという。「今まで撮ってきた中で1位になるかもしれないとおっしゃったんです。僕ら役者にとって最高の賛辞だと思いました。監督がこう断言しているんだから、絶対面白い作品です!」。

関連DVD・ブルーレイ情報をもっと見る
「ポテチ」の作品トップへ