劇場公開日 2007年3月3日

「人間交差点」秒速5センチメートル ストレンジラヴさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5人間交差点

2024年4月6日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

悲しい

知的

「今振り返れば、その人はきっと振り返ると強く感じていた」

「桜花抄」「コスモナウト」「秒速5センチメートル」の3編からなる新海誠監督の劇場公開3作目。題意は「桜の花びらが舞い落ちる速度」を意味する。個人的には新海誠作品の中で2番目に好きな作品である。
山崎まさよし「One more time, One more chance」の印象が強い本作だが、全体を俯瞰しても美しい詩篇と言っていい。スマートフォンのない時代、時刻表と路線図を頼りに離れ離れになった幼馴染に会いに行く不便さが物語の美しさを惹き立たせている。
同時に、悔しくもある。この頃の新海監督は坂の上の雲を目指して駆け上がっていた。資金や環境の制約もあったことだろう。しかしその不便さがこれだけの作品を作り上げたし、同時に作りたいものを作れていたから、風景の艶というものが出せたのではないかと思う。
「君の名は」(2016)も良かったがこの辺りからどこか物足りなさを覚えるようになった。登場人物から肌艶が失われ、世間受けを狙っているような描写が多くなってきたように感じる。公開されれば観るには観るが、本作や「言の葉の庭」(2013)で味わった五臓六腑に染み渡る切なさが今ひとつ足りていない。一度観たらそれでいいやとなってしまう自分が悲しい。
僕が東京を好きになったのは新海監督の描写によるところが大きい。またあのみずみずしい東京の風景をスクリーンで見せて欲しい。そんな寂しさを、星が落ちそうな夜だから偽れない。

ストレンジラヴ