劇場公開日 2007年3月3日

「近年の新海誠ヒット作の原点を感じる」秒速5センチメートル ゆちこさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5近年の新海誠ヒット作の原点を感じる

2022年11月13日
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この世界で自分を本当の意味で理解できる人なんていないんじゃないか。まるでひとりぼっちのような感覚を抱く中で、似た感覚を共有できた少女に出会い、まるで自分の一部のように思う。
そんな初恋を起点に、小中学生時代、高校時代、成人してからの物語と3話をオムニバス形式で展開する。各話の語り手も明里、第三者の花苗、主人公の遠野と、一つの物語を複数の視点から追っていく。

新海誠たるものが形成された作品と感じられる本作は、ファンならば近年ヒットした3作の原点をなぞることができて楽しい。代名詞ともいえる文学的なモノローグ、MVのような映像と音楽の使い方、幻想的な心象風景や青春の描き方など、そのどれもに積み重ねがあったからこそ、近年の作品に辿り着き、昇華したのだと感じられる。

特に印象的なのは3話でようやく出現するタイトルバック。それ以前の物語は、ここへ向かうための序章だったのだと。すずめの戸締まりを鑑賞済みの方は、ここである種の感動を得られると思う。
忘れられない初恋への未練はなんだったのか。遠野自身が気づくことで彼を一歩前へ踏み出させる。大変にセンチメンタルな青春映画でした。

ゆちこ