劇場公開日 1963年12月21日

「怖くないサスペンス映画の面白さは、ヘップバーンの大人の魅力と脚本演出の軽妙さ」シャレード(1963) Gustavさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0怖くないサスペンス映画の面白さは、ヘップバーンの大人の魅力と脚本演出の軽妙さ

2021年10月2日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

「雨に唄えば」「パリの恋人」のスタンリー・ドーネン監督の実に洒落たサスペンス映画。ヒッチコック監督が映画化してもいいくらいの謎解きの面白さが次から次へと繰り出されて、軽妙洒脱な推理映画の楽しさもある秀作。原作者でもあるピーター・ストーンの脚本が巧妙かつ練られている。相手をはぐらかす会話劇の大人のユーモアが、物語が進むほどに謎を明らかにするスマートさ。殺害シーンを一切映さないで作品全体の洒落たユーモアを最後まで保つドーネン監督の演出も、主演のケーリー・グラントとオードリー・ヘプバーンの二大スターの個性を生かしている。冒頭から現れるグラントは、4つの名前をもつ身元不明の紳士で最後に種明かしされるが、グラントならではの役柄だ。きっと役を気に入って楽しく演じていたのではないだろうか。巨漢ジョージ・ケネディとの格闘シーンも熟す還暦間近の熱演も見所になっている。
しかし一番のお楽しみは、ジバンシィの衣装を着こなすオードリー・ヘプバーンの大人の魅力溢れる落ち着いた演技。この時「ローマの休日」から10年のキャリアを重ねた33歳のヘップバーンは、夫を殺された事件について何も分からないレジーナ役の無垢さに、彼女の魅力が溢れている。また「荒野の七人」のジェームズ・コバーンを観てドーネン監督にテックス役を薦めたというが、この映画の脇役の適材適所も映画の面白さになっている。アメリカ大使館員バーソロミューのウォルター・マッソーとジョージ・ケネディの悪役も珍しいのではないか。そのアメリカ大使館の壁に掛けられた大統領の写真がジョン・F・ケネディというのが、この映画の制作された時を象徴する。不思議なことに、登場人物が連続して殺されたり少年が誘拐されたりと、犯罪劇の筋書きなのに少しも怖くなく、このケネディ大統領の写真で現実の恐怖心を感じてしまう。それ程にこの映画の良いところは、怖がらせるサスペンス映画の面白さではなく、騙され続けるヘップバーンが危険を潜り抜ける可笑しさを楽しむ映画であり、グラント、マッソー、コバーン、ケネディらの男優がそれを見事に支えていること。ラストのおどけた表情でヘップバーンを驚かすグラントの変顔が、この映画の粋なところを代弁している。ヘンリー・マンシーニの物々しくも何処か軽快でユーモラスな音楽も、脚本・演出と合っていていい雰囲気づくりに一役買っている。
肩の凝らないサスペンス映画の大人のユーモアを楽しむ、ヘップバーンとグラントのためのアメリカ映画。

Gustav