劇場公開日 2010年9月25日

「久々に、本気の大作日本映画!」十三人の刺客 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5久々に、本気の大作日本映画!

2010年9月26日
フィーチャーフォンから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

怖い

興奮

凄い映画になった!

『ヤッターマン』とかの監督だろ?みたいな理由で鑑賞を控えている方がもしいたら、考え直してほしい。
「今の時代に時代劇をリメイクしたって面白くはならないよ」と思っている方も、考え直してほしい。
この映画は本気だ。
久々に本気で作られた大作日本映画だ!

圧巻は本作の仇役である、稲垣吾郎演じる明石潘藩主。
稲垣吾郎が仇役ぅ?と物凄く不安だったが……驚愕。これが近年稀に見る、凄まじい悪党になっていた。
気の赴くまま、虫けらのように人を破壊し、殺し、畜生のように飯を喰らう。
そして何より恐ろしいのは、その気違いじみた行為の数々を歓喜も恍惚も感じることなく、ただただ無感動にこなしている点だ。
原始的(動物的)な衝動を満たせば『何の為に生きているのだろう』という虚しい心を埋められるとでも考えているのだろうか?
もはや狂人なんぞという言葉では物足りないほどに狂っているのに、そこにやはり“人間”を感じるこのおぞましさ。

それと対峙する、役所広司演じる島田新左衛門が率いる一団も、「何の為に生きているのか」という問いを振り払う為に戦う。
彼らが計画を練るまでの前半は並々ならぬ緊張感に満ちているし、満を持してのクライマックス50分の迫力は半端じゃない!
刺客達がスキルを発揮する様や奇策の数々に目を見張る前半と、見栄も誇りもかなぐり捨てた、泥塗れ血塗れの醜くも凄絶な後半。

そう、この戦いは酷く醜い。
「道場では五分五分だったな」
長い戦いの終盤、ある人物がそう薄く笑った後に取った行為に泣いた。
好敵手として互いに尊敬しあっていた者に対し、そこまでしなければならなかった哀しみ。

どれだけ正当化しようが、戦争は、人殺しは、汚く醜い。良いか悪いかはもう関係無い。ただ事実としてそういうものであって、それを美化して描こうというのが一番間違っているのかもしれない。
戦う以外の道だってあるだろ?とでも言いたげに飄々とした笑みを浮かべる山男の存在が、重苦しい空気を僅かに払ってくれている。

物語中盤での中弛みは否めない。
刺客13人をきっちり描き切れたとは言えない。
感情表現がやや露骨な部分もある。
不要に思えるキャラもいる。
あと三池監督お得意の下ネタも若干……(これは好き好き)。
不満点はあるが、この満足感に比べりゃ些細な事だ。

5.0に限り無く近いスコア4.5判定。
これ多分、傑作です。

<2010/9/25鑑賞>

浮遊きびなご