劇場公開日 2010年9月18日

「season7のジャック・バウアーでもたじろいでしまう石油プラント事故の迫力に圧倒されました。」THE LAST MESSAGE 海猿 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0season7のジャック・バウアーでもたじろいでしまう石油プラント事故の迫力に圧倒されました。

2010年9月11日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 まず映像から飛び込んできたのは、本作にかけるスタッフおよび、製作のフジテレビ、そして撮影に全面支援している海上保安庁意気込みです。
 海猿のファイナルに向けて、最高の作品を作ろうとする妥協なきチャレンジスピリットが映像に溢れていました。それは仙崎らの海猿バディの面々の心意気に完全にシンクロしていて、フィクションであるのにドキュメンタリーの様な錯覚を覚えてしまうほどです。

 それくらい本作では素晴らしい臨場感を醸し出しているのです。いくらROBOTが製作参加しているとはいえ、CGでごまかせる範囲は限られています。出演陣の熱演に加えて、本物の海上保安庁の巡視船やヘリコプターが林立する事故現場の映像は、まるでライブで事故現場を見ているかのようでした。
 さらに、ドリル・シップが衝突した石油プラント“レガリア”の内部も、精巧に作り込まれていて、鉄骨がぶつかり、火花を散らしながらきしむところや、台風が直撃して豪雨風雨にさらされるところなど、どうやって撮影しているのか想像もつきません。登場人物の頭上から、波や風雨ばかりか、鉄材や原油、さらに火焔が雨あられと降りかかる様は圧巻です。season7のジャック・バウアーでもたじろいでしまうことでしょう。
 このように全てが、ファイナルに向けて、クライム・パニックとして最高の舞台を作るのだという意気込みは、きっと皆さんも感じられることでしょう。なので、これは3Dで見たほうが、緊迫の臨場感をより強く感じられてお勧めです。(試写会は2Dでした。)

 こうした精巧な舞台装置ばかりでなく、人間ドラマとしても秀逸です。
 まずは主役仙崎の奮闘ぶり。毎度のことですが、第七管区の服部とともに“レガリア”に取り残された仙崎は、命がけで同じくとれ残された3名の民間人の救出に当たるのです。要所で危機を回避するときの先崎は、渾身の力を振り絞ってクリアーしていました。それは「ファイト一発!」のCMにそっくりの光景で、見ている観客の方も、思わず拳をグッと握りしめしまうほど、引き込まれしまう熱演なのです。

 そんな凄い場面で沈着冷静に救助活動に当たる隊員たち。救助される側から見れば、鉄人としか見えませんが、人として普通に事故現場で恐怖を感じ、どこかで限界を感じて逃げようとする気持ちも隠し持っている一面も明かされます。

 極限の任務が続いたため、パニックになった海猿2年目の服部は、恐怖のあまり身体が硬直して動けなくなります。しかし、そんな服部を叱るどころか仙崎も、震える手を見せながら、実は俺も怖いのだと告白します。だけど、おまえというバディがいる。そして仲間の隊員もいる。みんなと繋がっているから、何とか乗り切れてきたというのです。

 この「みんなと繋がっている」という仙崎の信念は、ラストになって、仙崎の救出にあたる隊員たちの描写で映像として見せつけるシーンが用意されていて、とても感動しました。
また今回のサブテーマの一つに、人生に逃げ回ったあげく、隊員になってしまった服部が、仙崎と共に一つのことをやり遂げることで、立ち向かっていく勇気を掴んで行くストーリーでもあります。現場で足を骨折して絶体絶命となった仙崎は、いつものように服部だけ先に逃がして、海水の中に没していきます。命からがら逃げ延びた服部は、気力も失せて、安全なところでたたずむばかり。しかし服部の心は折れてはおらず、激しく自らに、逃げてばかりでいいのかと問いかけていたのでした。
服部の仙崎救出の場面とその後の彼の変わりようは、見所の一つです。

 ところで、演出面で心憎いのは、緩急の付け方。仙崎が絶体絶命のクライマックスに近づくとき、不意に自宅で夫の生還を待つ環菜の姿に切り替わるのです。究極の静と動の対比。 現場では絶体絶命を迎えているのに、同時に進行するのは、その仙崎が残したのは、ひょうきんな内容の結婚三周年のメッセージCD。生まれたばかりの長男坊もいる、静かで平穏な自宅で、脳天気に語られる結婚の感謝のメッセージには、かえって涙を誘われてしまいました。
 それにしても、結婚記念日ごとに大事故に巻き込まれるのは、商売柄とはダイ・ハードな夫婦ですなぁ~。

 さらにもう一つのテーマは、人命の重さ。政府高官は、日韓露の共同プロジェクトとして1500億円の巨費を投じて作られた“レガリア”の延命を優先して、逃げ遅れた仙崎たちをまるで切り捨てろと言わんばかりの物言いでした。政府の体面や天然資源開発の国益といった理屈は分かりますが、そんながちがちの役人にも、人の命の重さがいかほどのものであるのか、グッと分からせる展開になっているのですね。まぁ実際の政府は、もっと弱腰で、マスコミを畏れて、すぐに人命重視の方針を出したがることでしょうけれど。

 ラストで救出に当たるヘリの出発が、台風が過ぎているのに遅すぎるなど突っ込みどころもなきにしもあらずでした。しかし、「LAST MESSAGE」の名に恥じない感動巨編であることは小地蔵が保障します。大ヒット間違いないでしょう。

流山の小地蔵