ー 私が、名匠成島出監督作品を映画館で見始めたのは、2011年の「聨合艦隊司令長官 山本五十六」からである。
故に、今作は初鑑賞作である。
今作では幾つかのオペシーンが描かれるが、主人公の当麻鉄彦医師(堤真一)のシーンの美しさは比類がないと思う。-
■1980年代。ある地方都市の地方病院が舞台である。
看護師の浪子(夏川結衣)は、大学病院に依存し、外科手術ひとつまともにできない地方病院・さざなみ市民病院に勤務していた。
そこに外科医・当麻鉄彦が第二外科部長として赴任し、患者のことだけを考えて行動していく。
◆感想<Caution!内容に触れています。>
・それまでの旧弊的な病院を代表するかのように描かれる野本第一外科部長(生瀬勝久)の姿と、ピッツバーグ大から赴任して来た当麻鉄彦医師との対比が巧い。
悪役と言っても良い野本の姿が、当麻の高潔さを際立たせているからである。
・又、当麻を支える看護師の浪子が、日記に書いていた文章が、当麻の手術シーンに抑制したトーンでモノローグとして流れる構成も良い。
■当麻のオペシーンは、生体肝移植を執刀している医療チームの監修の元に描かれたそうであるが、流れるようにメス、クーパーなどの医療器具を使用し、冷静に身体の悪い所を直していく当麻のオペシーンは美しい。
特に、浪子の隣人武井静(余貴美子)のボランティアを一生懸命に行っていた息子(太賀)が交通事故に遭い、脳死状態になり”脳死肝移植”と言う、当時としては医師が殺人犯になる可能性のあるオペに臨むシーンの描き方が素晴しい。
静は、息子の肝臓をさざなみ市民病院に当麻を呼んだ市長(柄本明)への移植を許諾し、当麻がオペをする前に深々と静にお辞儀をする姿。そして、取り出した肝臓に対し”美しい肝臓でしたよ。”と伝え、市長の肝臓がんに近いボロボロの肝臓を取り出し、綺麗な肝臓を体内に入れ、血液を流し込むシーンの、新しい肝臓がピンク色になって行く様の美しさは比類がない。
・野本第一外科部長の愚かしき数々の行為と、それを本人に告げる大病院の医師であり、当麻の親友(松重豊)の姿にも、溜飲が下がる。
<そして、年月は過ぎ、浪子の看護婦時代の日記を読んでいた息子(成宮寛貴)は、医者になるのである。
今作は、名匠成島出監督が”医は仁術也。”という言葉を見事に描いた医療ヒューマンストーリーなのである。>