劇場公開日 2009年11月7日

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「本当の気持ちを告白するときの谷原章介の表情が素晴らしい。何とか大人の鑑賞にも耐えられるレベルです。」天使の恋 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0本当の気持ちを告白するときの谷原章介の表情が素晴らしい。何とか大人の鑑賞にも耐えられるレベルです。

2009年11月8日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 「恋空」「赤い糸」を超えるアクセスを誇るケータイ小説の金字塔を小説化。「赤い糸」は見ていますので、小地蔵なりにこの手の作品に共通するのは、観客対象となる携帯世代に密着した凄くリアルな存在感がある主人公なんだけれど、ストーリーの方はアリエネェ~と思うくらいの偶然が重なっていく、ぶっ飛んだ展開が目立つと思うのです。

 本作も、高校生を娘に持つ親世代から見たらぶっ飛びそうだけれど、現実にはどの学校でも居そうな理央が登場します。理央は援助交際を自分だけでなく、クラスメートにまで様々な謀略を使って、仲間に引き込む小悪魔のような悪女なんです。
 生活は贅沢三昧で、援助交際の相手から豪華なマンションをあてがわれていたり、高級ブランドを着飾ったり。理央と仲間の女子生徒4人が原宿を闊歩するところは、セックス・アンド・シティをぱっくったような映像でした。
 いまこんな女子高生が現実にいて、映画の世界だけではなくなっていることが、恐いことですね。
 ただ理央は好きでこうなったのでなく、ちゃんとした理由がありました。後半明かされる彼女の身の上を聞くと、3年前にレイプされて、妊娠までしたというのです。気丈にも出産を決意したものの、女子中学生に子供は育てられないと両親が反対し、やむを得ず卸してしまったことを語ります。
 それ以来理央は、苦しめられる立場から、苦しめる立場になっやろうと決意。不良仲間と連んで、毎晩援助交際をした相手を揺すって、まとまった金額を脅し取るような修羅場を続けていたのでした。

 そんな荒んだ生活を唯一慰めてくれるのが、親友の奈緖子でした。彼女との親密度は、キスし合うレズに近い深いもの。しかし、奈緖子は、毎晩義理の父親に犯されていて、挙句の果てに父親を殺し、理央の目の前で飛び降り自殺してしまいます。
 何ともシリアスなストーリーです。

 こんな汚れ役をよく佐々木希が引き受けたものだと感心します。彼女がこの役を演じるには、「天使」過ぎます。またストーリー配分も、佐々木希のために用意したようなブランドを着飾るシーンが長すぎたと思います。
 もっと理央の過去を暴き立てて、強烈な恨み心の描写と際立つ悪女ぶりを描くべきでした。それを佐々木希に求めるのは酷なこと。冒頭タイトルシーンで背中をはだけたセミヌードを披露するのが精一杯というところでしょうか。

 そんな小悪魔が、写真店の手違いで手した同姓のある男の写真に一目惚れしたことから、態度が豹変します。今時銀塩カメラで同時プリントするのかという疑問もありますけどね・・・。
 クールで表情を出さない援助交際グループのリーダーが突然援交から足を洗い、恋する乙女にキャピキャピとヘンシ~ン!しちゃうのは、ケータイ小説ならではの展開でしょうか?
 理央は写真の主と知り合うため、直接プリントの袋に書かれていた連絡先に電話して、光輝と出会うことになります。ホントならプリントを渡してねそれまでになるのに、わざと持ってきたヴィトンの傘を赤の他人に譲り渡して、光輝の傘のなかに潜り込むところが微笑ましいです。
 このシーンは、もう一回クライマックスの駅ホームでの場面で、リフレインされるので、覚えておいてください。全く記憶をなくした光輝の傘のなかに、理央は初対面の振りをして潜り込もうとするところは、ぐっときましたね。

 本作が大人の鑑賞に堪えるレベルまで引き上げたのは、光輝役の谷原章介の演技が素晴らしかったからだと思います。
 光輝は凄く複雑な設定で演じるのは難しかっただろうと思います。
 理央にキャピキャピに迫られたら、35歳のおじさまだって目尻を下げて交際に応じるではありませんか。なのに意味深に光輝はクールに撥ね付けるのです。ストーカーみたいに後を付けられても平然と無視。こいつ歴史オタクだから女に興味がないのかと思っていたら、大間違い。後で告白するのですが、理央に言い寄られて、実は嬉しかったのです。 でも、撥ね付けたか、そして突然理央の前から消えてしまうのか?それは光輝も3年前にある人物からあることを宣告されたことで、御先真っ暗の絶望状態となり、毎日をニヒルに生きていたのでした。

 理央に自分の置かれた境遇と、本当の気持ちを告白するときの谷原章介の表情が素晴らしい!本当に暗闇のなかで、天使と出会って救われたというような至福の顔つきでした。
 さしてラストの感動シーンへ。後半部分は、一般の映画ファンの鑑賞に充分堪えられるレベルです。期待をはるかに上回る出来でして、構成面で修行を積めば寒竹ゆり監督は、西川美和監督に匹敵する評価を得ることになるでしょう。

流山の小地蔵