劇場公開日 2009年4月11日

雪の下の炎のレビュー・感想・評価

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5.036歳日本人女性監督が卓越したカット割り構成で、33年間屈しなかった不屈のチベット僧の信念を浮き彫りにします。中国政府の残虐さに絶句!

2009年5月3日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 冒頭登場する33年間も中国共産党の拷問に決して信仰を捨てなかったチベット僧パルデン・ギャツォ師の飄々とした姿に感動しました。今年76歳になる彼の人生の大半は牢獄で過ごしたことになります。
 しかも、獄中の拷問方法は、凄まじいの一言。口の中に、強力な電気棒を押し込まれて、余りの衝撃に、すべての歯がもぎ落ちてしまったそうです。信仰さえ捨てれば、即釈放され自由の身となるのに、決して自らの命をかえりみず、仏への帰依を貫いたそうです。 それを過去の話として涼しく語る姿に、同じ仏教徒として、いくら「不惜身命」とはいえ、尊敬するとともに、心の痛みをを禁じ得ませんでした。とても小地蔵には、その不屈さの真似は出来ません!

 さて、作品のほうは、このパルデン師の苦悩の半生を通して、チベット問題を浮かび上がらせるドキュメンタリーとなっています。
 1959年のチベット動乱の際、平和的なデモ活動をしただけで中国政府により投獄され拷問を受けたこと、その後3年間もの長きに及んだ獄中生活を不屈の精神で生き抜いた回想を語るところから始まり、現在の亡命先のインドを拠点に中国への抗議活動を続けながら、日常生活を送るところが描かれます。

 監督は、パルデン師の娘というより孫に近い年齢の日本人女性欒眞撃(ささまこと)。 欒監督は、霊感がある人に、前世はチベット人だったってよく言われるなど、チベットに並々ならぬ運命の縁を感じていたそうです。
 そして、大学在学中にパルデンの存在を聞き知り、著書を読むにつけて、以前から心にあった、悲しみや争いの多いこの世の中を変えたいという思いがつのり、建築の世界から映画制作の道に転向してしまったそうです。。 監督が初めてパルデンに会ったときは涙が止まらなかったそうです。『生きててくれてありがとう』っていう思いだったそうです。そして辛いことがあると、いつも「彼の苦しみに比べれば私の苦しみなんて取るに足らない。頑張ろう」って自分に言い聞かせてきたそうです。

 本作で一番印象的だったのは、2006年冬のトリノ五輪でパルデンが中国のチベット抑圧に抗議し、トリノでハンガーストライキを行う場面です。カメラに向かって「ここで死んでも構わない」と言い、獄死した仲間のことを話して涙をぬぐうパルデン師の姿が感動的でした。
 でもIOC会長は、ハンストを辞めさせるために交わした約束を反故にしてしまうんですね。コノヤロウ!

 パルデン師が訴えたのは、チベット人の人権が守られること。言論の自由や宗教の自由があって、ダライ・ラマの写真を堂々と掲げて礼拝できるようになること。そんな当たり前のことが、命がけの活動になってしまうのが、現在の中国の実情なのです。

 本作は、反戦平和を強調するプロパガンダ作品とは明確に一線を隔てていると思います。それは、徹底した中国政府の残虐行為を告発しつつも、その非道に対して、闘うことよりパルデン師の優しく慈愛に満ちた姿の描写で抗しているからです。師の優しい笑顔こそがこの映画の最大の武器と言えるでしょう。
 そしてラストでパルデン師は、「われわれが真実なのだから、闘わずとも必ず勝利すると信じいている」と語っていました。そのことを日本の憲法になぞらえて、非武装中立を説く、チベット研究家もいます。しかし、パルデン師の信念は、本当に仏の力は偉大である。その偉大な仏の力に帰依しているわれわれが敗北することはないという不退転の悟りが語らせているのだと感じました。

 作品で描かれる拷問シーンはまだまだ序の口。上映後のトークショーに登場した『チベット チベット』の金昇龍監督の話では、電気棒を陰部に押し込まれたり、口の中に汚物を流し込んだり、ありとあらゆる非人道的な拷問が日課のように現在も続けられているそうです。
 さらに、チョットした弾みで政治犯が処刑されるところも描かれていました。これまでの弾圧で殺された数は200万人にも上ると言うから、もうこれは、ジェノサイドです。
 トークショーで、チベット研究家の方が明かした話では、五輪後に徹底した家宅捜査がチベット中で行われて、ダライ・ラマの写真を持っているだけで、逮捕されたそうです。 その数は5000人と言われていて、全員チベット国内では行方不明となっているそうです。
 4月22日付けの産経新聞によれば、来日したダライ・ラマ14世が記者会見したなかで、中国のチベット弾圧について、「中国は昨年夏の北京五輪の際には弾圧姿勢を緩和してきたが、その後は再び強硬になり、いまは逆戻りしてしまった」と指摘し、「中国は大国だが、子供のような行動をする」と痛烈に批判したそうです。
 また、ダライ・ラマは昨年3月、チベット自治区ラサ市内で起きた大規模な騒乱に関与したとして死刑判決が相次いでいることについて、「現在のチベットの状況を反映している。そうした事実や現実を直視してほしい」とも強調したそうです。

 チベット問題の大きな問題点は、北京に支局を置いている大手マスコミが報道しないこと。日本国民の多くは、チベットで多くの善良な僧や民衆が投獄されて非人道的な拷問を受けていたり、処刑されていることを知らされていません。

 幸い首都圏の方でしたら、渋谷のアップリンクで連続して、チベットのドキュメンタリーが上映されています。GWは大作も多い中、お近くの方は、本作に触れていただきたい。そして世界にはまだまだ平和ではない国があることを知っていただき、関心を持っていただけるといいなぁと思います。

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