ザ・バンク 堕ちた巨像 : 映画評論・批評
2009年3月24日更新
2009年4月4日より丸の内ピカデリー1ほかにてロードショー
“強欲”対“正義”の闘いを映画的興奮たっぷりに見せる快作
この映画は、いつもながら苦々しい顔をしたクライブ・オーウェン扮するインターポール捜査官のクローズアップで始まる。彼が摘発に執念を燃やすのはIBBCという国際的なメガバンクだ。この銀行、テロや紛争につけ込んでひたすら利益追求を行う極悪バンクなのだが、新人ライターのエリック・ウォーレン・シンガーは幾多の犯罪スキャンダルで破綻した実在の銀行BCCIをモデルに脚本を書いた。銀行の投資部門の“強欲”を告発した本作は、結果的に昨今の世界金融危機を予見した格好となった。
物語は冷たい緊迫感みなぎるサスペンス・ミステリーとして進行するが、随所に盛り込まれた優れたアクションが熱い映画的興奮を喚起する。最大の見せ場は、フランク・ロイド・ライドが設計したニューヨーク・グッゲンハイム美術館での怒濤の銃撃バトル。外観はロケで、螺旋状の回廊がある内部はセットで撮ったのだろうが、派手な銃撃戦が“まさかこんなところで!”繰り広げられる意外性にド肝を抜かれる。一時的に共闘するはめになった主人公と殺し屋が、敵の部隊がうようよと迫ってくるなか、「一か八か突破するしかねえな」と呟く古風なセリフにも痺れた。
これはいわば1970年代アメリカの犯罪映画のガッツと、金融のモラルを問う現代的テーマを融合した一作である。無力な主人公が、今どき珍しく“正義”という行動原理を貫こうともがく点も新鮮だった。さて、正義は貫けるのか。もちろんラストシーンも、クライブ・オーウェンの顔のクローズアップである。
(高橋諭治)