劇場公開日 2008年3月29日

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「原題の「Things we lost in the fire」の方が作品の趣旨に合ってます。」悲しみが乾くまで ジョルジュ・トーニオさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5原題の「Things we lost in the fire」の方が作品の趣旨に合ってます。

2008年4月9日

泣ける

<ストーリー>
オードリーの夫が突然争いに巻き込まれて殺されてしまう。葬儀の準備をしていた彼女は、夫の親友で麻薬中毒から立ち直れないジェリーに連絡していないことを思い出す。いつまでも立ち直れないジェリーを、夫が生前周囲が見放す中で、一人見離さなかったことを、オードリーは理解出来なかったが、夫の意思を引き継ぐように離れの部屋を彼に貸すことにする。

<個人的戯言>
いつも「ありえない」シチュエーションからの再生を描いてきたスサンネ・ビア監督。今回は比較的「さもありなん」な状況ではありますが、その分時間を掛けて突然夫を失った妻の悲しみを、時間軸を何度か入れ替え、また得意の表情への接写を駆使しながら、丁寧に描いていきます。主役のハル・ベリーもそのゆっくりとした展開に合わせた、徐々に心境が変わっていく様を見事に演じています。またも個人的弱点、「近しい人の死をどう受け入れるか」系ですが、沁みわたるようにその悲しみが広がっていく感覚は、この監督独特のもののように思います。

最初の辺りは、夫の死、それまでの幸せな日々、親友との関係、事件が起こる日等が目まぐるしく時間軸を変えることで、今の悲しみとのコントラストを強調するのに成功しています。親友が離れに住むようになると、妻は最初は彼を救うことで自らも救いを求め、しばらくすると親友の存在によって、夫が亡くなったという状況を受け入れられないことが浮き彫りになり、「夫がいた頃の生活」に固執しようとします。この辺りの苦悩を、得意の表情への接写と、ハル・ベリーの徐々に変わりゆく心情を表現した演技が、「近しい者の死」を受け入れられない様を、時間をかけて沁みわたるように表わしています。突然大きな展開があるわけではありませんが、それだけに説得力を持って心に迫ってきました。

やがて親友への誤解に気付き、再び彼を救おうとする中で、彼女は夫と自分以外の人との間に築かれた過去の時間を知り、更に夫と彼女が築いた時間も既に過去になったことに気付き、それを受け入れざるを得なくなります。とてもつらい瞬間ですが、どこか救われた感じを、うまく主役二人が表現しています。

最後は次なる生活を歩み始める主人公たち。今までの監督の映画の中では、最も明快に希望を示した作品で、この辺りはハリウッド的?でも悪くはないです。

過去の作品も「ありえな~い」シチュエーションで表現する心のひだ的作品ばかりです。

ジョルジュ・トーニオ