劇場公開日 2022年8月19日

「最高!」ブエノスアイレス Raspberryさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0最高!

2023年4月24日
iPhoneアプリから投稿

レスリーチャンは永遠に手に入らない魔性の女。手に入れたと思っても、手のひらをすり抜けてどこかへ行ってしまう“旅人”。
移り気で、一人にすると周りの男も放っておかないから心配で仕方ない。
無償の愛を求める乳児のようなわがままも、全部丸ごと惚れているから仕方ない。

トニーレオンはしっかり働き、部屋を整え、料理が上手い“生活者”。旅人ではない。
怪我をしたレスリーチャンを甲斐甲斐しく世話を焼く。幸せで充実した日々だけど、レスリーチャンは怪我か治ればまたどこかへ行ってしまう。

今度こそ、こんな関係にケリを付けるぞ、簡単に体は許さない!って強がってる時点で全然終わってないよね。

言葉を使わず身体で会話をしているような感覚がもたらされるタンゴ。相手の手を取りリードしたり、背中の手に誘惑されたり。人生はタンゴを一曲を踊るようなものかもしれない。

愛しているけど、一緒にいると自分が前に進めないやるせなさ。バイト先のチャンチェンには電話の声でわかっていた。
世界の果てで苦しいものを捨ててきてあげますよ。トニーレオンの無言の声が震える。

世間知らずの旅人が、自由に飛び回るパスポートを奪われると、果たしてどうなるのか。あっけなく命を落としそうな危うさに、堪らなく想像力を掻き立てられる。

冒頭のトニーレオンの唾液、体を拭く洗面器の汚れた水、屠殺場の血、イグアスの滝。液体が効果的に使われていたためか、私は百人一首の一首を思い出した。

“瀬をはやみ岩にせかるる滝川のわれても末に逢はむとぞ思ふ”

Raspberry