劇場公開日 2021年10月15日

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「技術的な限界とかではなく、無声映画とトーキーのハイブリッドで作るという製作方針で監督は撮ったのだとおもいます」巴里の屋根の下 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0技術的な限界とかではなく、無声映画とトーキーのハイブリッドで作るという製作方針で監督は撮ったのだとおもいます

2023年8月3日
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鑑賞方法:VOD

1930年、フランス映画
ルネ・クレール監督の初トーキー作品

大人気監督なので人気作品は沢山ありますが、本作の「巴里の屋根の下」、1932年の「巴里祭」、1957年の「リラの門」の3本はパリの下町が舞台だけあって特に人気が高いです

パリの下町の人々への暖かい視線が心地良いです
大袈裟に言えばヒューマニティです
それが全編に溢れているのです

冒頭のシャンソンが本作のテーマそのものです

♪20歳の春、花咲き乱れる春
愛し合うふたりには最高の時
春風香る青き大地・・・

あ~~!20歳の頃に戻ってこんな恋をまたしてみたい!なんて遥か遠い目をしてしまいます

アルベールとポーラとルイの三角関係
はこれから一体どうなるんでしょう?
それは語られません
ラストシーンはカメラがどんどんクレーンで上りパリの街並みを安アパートの屋根の高さから俯瞰します
巴里の屋根の下で、こんな恋物語はあちこちで今日も明日も繰り返されているのでしょう
100年後近い21世紀の現代だって変わりないのだとおもいます

商業映画のトーキーは1927年の米国映画「ジャズシンガー」で、1928年頃にはトーキーの公開が本格化したそうです
欧州では翌年の1929年からトーキー映画が製作されはじめたそうです

でもフランスでは1932年後半になっても半数以上の劇場がトーキー未対応だったそうで、本作公開の1930年の時点ならば大都市の主要劇場ぐらいだけがトーキー対応ではなかったでしょうか
まだまだ無声映画も人気だったのでしょう
というかトーキー映画を設備が無くてもかけて無声映画として興行していた場末や田舎の映画館もあったのかも知れません

なので本作はトーキーで撮られているのですが、台詞が発声されているシーンは要所のみでほとんどのシーンは無声映画の流儀で撮られいます
演技だけで何を言っているのか分かるようになっています
つまり無声映画の文字画面が時折はいる所を台詞で発声させているのです
もちろんシャンソンの合唱や劇伴、効果音は全編で流れます

技術的な限界とかではなく、無声映画とトーキーのハイブリッドで作るという製作方針で監督は撮ったのだとおもいます

爬虫類と哺乳類の両方の特徴を合わせもつカモノハシみたいな映画技術史的にも注目すべき作品とおもいます

蛇足
日本のトーキー映画はというと、1931年の「マダムと女房」が全編トーキーで公開された初作品だそうです
欧州が米国の一足遅れなら、日本は二足遅れですが、技術革新にさほど遅れずについていってます

でも日本には活弁士という世界でも類のない興行方式がありました
なのでトーキー設備のない映画館でトーキーを無声で興行しても活弁士がいますからさほど違和感もなく困らなかったのかも知れません

成瀬巳喜男監督の初トーキーは「乙女ごころ三人姉妹」、小津安二郎監督の初トーキーは「一人息子」で、どちらも1935年公開ですからトーキー映画への取り組みは製作側でもゆっくりしたペースでした

日本がトーキー映画への転換がかなりゆっくりなペースになったのは、活弁士による興行が観客に支持されていたことも一因だったのかも知れません

でも一度設備投資をしてしまえば、あとは減価償却のみのトーキー映画の方が、日々結構なギャラの発生する活弁士や楽団を雇うより経済的ですから結局活弁士はトーキー映画に駆逐されてしまったわけです

本当?
アニメの声優さん、洋画の吹き替えの声優さん
これは活弁士の頃からのDNAが連綿として現代にまで繋がっているように思います

だから日本の声優さんはクォリティーが高いのだと思うのです
声優が職業として成立しているのは世界でも日本だけだそうです
活弁士もそうだったじゃないですか
恐竜が進化して鳥になったように、声優さんのご先祖は活弁士なのかも知れません

あき240
活動写真愛好家さんのコメント
2023年8月14日

巴里の屋根の下、いいですね〜‼️私は巴里祭よりもこの作品の方が好きです‼️オープニングの移動撮影からのみんなで主題歌合唱‼️忘れられません‼️

活動写真愛好家