劇場公開日 1983年12月10日

「007好きならオクトパシーとセットで絶対に観ておくべき作品です」ネバーセイ・ネバーアゲイン あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0007好きならオクトパシーとセットで絶対に観ておくべき作品です

2019年4月12日
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鑑賞方法:DVD/BD

金の成る木の人気シリーズとなれば元祖と本家の分裂が勃発するのもむべのないこと
本作は本家MGMに対してワーナーが元祖ショーン・コネリーを使って対抗した作品です
もしも元祖が圧倒的な勝利を納めれば実質的に今後の007シリーズを乗っ取ることも視野にはいります

しかしお客さんからすれば、そんなお家騒動はどうでもよくて、要はより面白い007を観せてくれるのはどちらかというだけのこと
1983年本家と元祖の二つの007作品が激突します
先攻は本家オクトパシーが同年夏、後攻は元祖の本作で同年秋

結論からいうと興行収入の勝敗では本家オクトパシーに軍配が上がり本作は敗れました
とは言えそんなに大きな差ではない惜敗でしたし、肝心の内容も観れば分かるとおり、製作費は本家オクトパシーの1.3倍も掛けておりチャチさは皆無
正に横綱同士が真っ向勝負を挑んだもので、素晴らしい出来映えです

敗因は何か?
それはロジャー・ムーアの引き抜きに失敗したことにあります
本家の妨害工作によりムーア以外にもシリーズ製作スタッフの引き抜きも満足にできなかったのです

クレジットにはないですが本作は実質的にショーン・コネリーが製作した作品だったのです
このムーアの引き抜き失敗のために結果としてコネリー自身が主演するしかないことになり、物語りもロートル化したボンドが最後に一花咲かす物語になってしまいました
これではシリーズ化して発展する余地がありません
つまりシリーズ乗っ取りに失敗したのです

とはいえ内容はさすが元祖のコネリーです
007らしさを追求した作品に仕上がっています

特に敵の美人殺し屋のキャラクター造形はお見事です
ジョーズに負けない敵役を作りあげており、オクトパシーのインド人ボディーガードよりも数段上です
外見、衣装、性格付け、演ずるバーバラ・カレラの熱演が渾然一体となってそれは魅力的な敵になっています
自分が最高の女だったとボンドに書き付けを要求するシーンなどは最高の見せ場でした
このキャラクターの造形はその後の女性悪役像に大きな影響を与えた存在だと思います
殺し屋対決では本作が圧勝です

ボンドガールも本作のキム・ベイシンガーの方が本家の年増ボンドガールに圧勝です

アクションは沈没船内でのサメとの格闘、ニースでのバイクシーンなど健闘しているのですがオクトパシーのような超のつくド派手な見せ場はなく一歩及ばず

美術も悪くはない水準以上の良い出来映えなのですが本家シリーズからスタッフを引き抜きできず今一つ垢抜けてないのは否めません

カメラ対決はオクトパシーの圧勝
本作でもところどころ良い映像はあるのですが、映像のクオリティの差は一目見れば明らかです

音楽は巨匠ミシェル・ルグランで本作の圧勝
主題歌も劇伴も本作の方が断然良いです

しかし、007のテーマソングを使えないハンデは想像以上のものです
やはりあの音楽がなければはじまりません
あのガンバレルの冒頭のサウンドジングルがなければ007を観たことにならないのです
さらには主題歌の時のシルエット映像もスタッフを引き抜きできなかったのは痛いです
あの映像がなければ007を観るぞという態勢を観客は作れないのです

肝心の主役のボンド対決はどうか?
コネリーもさすがに熱演でこれぞ007だと演技で示しています
しかし数作のブランクでムーアのボンドイメージが固まってしまっていました
これはコネリーがやや優勢ながら引き分けでしょう

総合結果としては、このワーナー版007は次回作が作られることはなく本家の勝利が確定したのです

とはいえ本作は大変に面白く、後年の007シリーズに大きな影響を与えたのは間違い無いこと
シリーズに新しい血を注いだとも言えるでしょう
007好きならオクトパシーとセットで絶対に観ておくべき作品です

あき240