劇場公開日 2020年8月21日

「第二次世界大戦が生んだ唯一の産物」第三の男 koukiさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0第二次世界大戦が生んだ唯一の産物

Kさん
2022年3月29日
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鑑賞方法:DVD/BD

言わずと知れたサスペンス映画の金字塔である本作は、今や神格化し、このタイトルを聞いただけで誰もがひれ伏してしまう。

そのため、あまりに期待し過ぎて楽しめなかったという人もいるかもしれない(私はそんなことはなかったけれど)。

何故この「第三の男」がすばらしいのかを書き出してみると・・・
・戦後の退廃したウィーンを舞台にし、リアルタイムで行われていた闇市や密売を描いたという点
・占領地区が細かく分類されていたという時代背景で進行する上質のサスペンス
・音楽は民族楽器であったチターのみを全編通して使用し、それがすばらしい効果を上げている
・脚本を文豪のグレアム・グリーン、監督を全盛期のキャロル・リードが務めている
・ジョセフ・コットンとオーソン・ウェルズという実生活でも親交があった二大俳優演じる渋い、魅力的すぎるキャラクターたち

ぐらいだろうか。

三流の西部劇作家マーティンズ(コットン)は親友のハリー(ウェルズ)を頼ってアメリカからウィーンへとやって来る。
しかし、ハリーの住むアパートへ着くと管理人から彼は死んだと聞かされる。
ここから物語が始まるわけだが、僅かに傾いたカメラは不気味さを醸し出しており、斬新な映画的手法として成立している。

ハリーは聞くところによると事故死したようだが、不審な点が多く、納得のいかないマーティンズは独自に真相を突き止めようと捜査を始める。
タイトルの「第三の男」とはこの事故に関わった人物の事で、皆ハリーの顔見知りだったのだが、アパートの管理人の証言によって存在が明らかになった"第三者の男"を指している。

中盤まではこの謎に包まれた"第三の男"探しと、ハリーの恋人で舞台女優のアンナ(アリダ・ヴァリ)とのロマンスに費やされている。

しかし、そこから全てが覆される。
あえて記さないでおくが、後半からぐっと強くなるウィーンの荒廃感は記録映像のようだ。
すばらしい名シーンの数々は俳優の完璧な演技、ロバート・クラスカーによる"影"のコントラストが際立つカメラワーク、グレアム・グリーンのユーモアを織り交ぜた脚本に支えられ、色褪せるどころか現代に生きる我々をも驚かせてくれる。

テーマも多く潜んでおり、表面上では悪は罰せられるべきという単純なものだが、人間の二面性、冷静な残虐さ、さらには女の性(さが)にまで触れているように感じた。

ラストはグリーンの小説と異なるが、多くの人が賞賛する通り、最高の幕切れだろう。

「ハリー・ライムのテーマ」を演奏するチターの弦にタイトルが映るファースト・シーンから、名高い一本道のエンディングまでの105分間は完成された芸術であり、戦後間もないという時代背景も手伝って"映画史上最高"のタイトルが最も良く似合う名作となった。

K