劇場公開日 2020年8月21日

「バカ正直なホリー、何てバカげた名前なの…」第三の男 徒然草枕さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0バカ正直なホリー、何てバカげた名前なの…

2021年11月27日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

この作品は隅から隅まで素晴らしい映画史上に輝く名作だ。
カサブランカのように俗な似非政治ロマンスとは大違い。
何処から論じても長い話になってしまうので、ここでは男を徹底して振りまくる女のクールさをあげたい。

主人公のホリーは卑劣な犯罪を犯した友人ハリーを、警察に引き渡す手伝いをするのだが、それに対してハリーの恋人は厳しく非難する。
「バカ正直で小利口で人畜無害のホリー、何てバカげた名前なの」
一文字違いの友人が自分の恋人を警察に売ったのだから、当然だ。しかも、この間抜けな友人は自分に惹かれて、さりげなく誘いをかけている。バカな名前の、バカな男、ホリー…すべての感情のこもった罵倒が、女のハリーへの愛情の深さを浮き彫りにする。

そしてラストシーンで、並木道の彼方から歩いてくる彼女のシーン。
ホリーは未練から道の途中でわざわざ車を降り、彼女に声を掛けて貰えるかもしれないという微かな期待を抱きつつ彼女を待つ。すべてを察した警官から「あまりみっともない真似はするなよ」と忠告されたにもかかわらず。
美しい並木の紅葉がハラハラ散るなかを彼女は歩き続け、落ち続ける落葉を彼女が踏みしめ、踏み砕きながら、ゆっくりとホリーに歩み寄ってきて、ホリーは知らぬふりをしながらタバコの煙をふかして待ち続け、すぐそばまで彼女が歩み寄ってくる…そして彼女は枯葉を踏みしめ踏み砕きながら、見向きもしないまま歩み去っていく。

どうにもならないホリーの恋心と、どうにもならなさにホロリとさせられるのは、或いは男だけかもしれない。
学生時代に憧れの女性たちと観たのに、どんな感想か聞きそびれてしまったっけ…

徒然草枕