劇場公開日 1995年6月10日

「やがてつまらない朝が」青春神話 因果さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5やがてつまらない朝が

2022年11月28日
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ボタンを押していないのに止まる4階、排水溝が詰まって度々水浸しになる部屋、そこに放り込まれるタバコの吸い殻。これだけでほとんど映画は完成している。受け手が画面から目が離せなくなるような何かを言葉以外で現出させられるのなら、無粋で説明的な会話などは必要もない。

物語を動かすのはゲームセンターにたむろするヤンキー気質の少年と、受験に家庭問題とままならぬ日常に鬱憤を募らせる内気な少年だ。はじめこそはっきりとした陰陽のコントラストで描き出されていた二人だったが、次第に台北の街を浸すモノトーンな憂鬱の中へと呑み込まれていく。

深夜のゲームセンターから基盤を盗み出したり、美しい同世代の少女と寝たり、あるいは親に逆らって予備校を辞めたり、いけ好かない男のバイクをメチャクチャに壊したりしたところで、彼らが辿り着くの先は共に「どこへも行けない」という根本的な閉塞感なのだ。バイクを壊され生活の足を奪われたヤンキー男と、彼が怒り散らすさまを見て陰から狂喜するあまり天井に頭をぶつけた内気少年。思えばそのとき全ては終わっていた。彼らはなおも奮闘を続けるが、待ち受けるはさらなる苦難。

身も心も疲弊しきったヤンキー少年は女を抱きしめながら「どこかへ行こう」と涙を流す。内気少年は思い切って入ったテレクラの電話に出られず無言で店を後にする。

やがて画面から人影は消え、未明の街は冷たい無機物に支配される。青春は終わり、やがてつまらない朝が来る。

因果