スペードの女王

劇場公開日:

解説

プーシキンの名高い短編小説の映画化で、「誘惑の港」のロドニー・アクランドがアーサー・ボイスと協力脚色し、英国映画界中堅的地位にあるソロルド・ディッキンソンが監督に当り、「誘惑の港」と同じくオットー・ヘラーが撮影に当り、「乱闘街」のジョルジュ・オーリックが作曲したアナトール・デ・グルンワルト作品である。主演者は「赤い靴」のアントン・ウォルブルックと、映画初出演の八十歳の舞台女優エディス・エヴァンスで、同じく映画初出演の舞台女優イヴォンヌ・ミッチェル、「僞れる結婚」のロナルド・ハワード、メアリー・ジェロルド、アンソニー・ドーソン、ポーリン・テナント等が助演する。なおエヴァンス、テナント両嬢のコスチュームとセットは著名なデザイナーのオリヴァー・メッセルがデザインした。

1948年製作/イギリス
原題:The Queen of Spades
配給:BCFC=NCC
劇場公開日:1950年6月20日

ストーリー

一八〇六年、聖ペテルスブルグの社交界では賭博熱が狂おしいくらいに高まっていた。カードの「ファーロー」に、一夜で資産をなげうって自殺する男女も珍らしくなかった。その中にただ一人、貧乏大尉のヘルマン・スヴォリンだけは賭博に手を出さなかった。彼は一文の金も惜しんで貯蓄し、それを栄達の道具にしようと深く決意している男だった。しかしスヴォリンはよく賭博場へ出かけ、黙ってファローのカードが切られるのを見詰めた。或日彼はゆくりなくもラネウスカヤ伯爵夫人という老未亡人が、魂を悪魔に売ってカードに勝つ術を授かっている、ということを知った。人に尋ねて伯爵夫人が存命で、孤独に暮していることが分ると、老婆がそんな秘術を一人占めしていても何にもならぬ、自分に教えてくれれば役に立つではないかと、スヴォリンは考えた。彼は伯爵夫人の若い侍女リザヴェタに近付き、彼女の歓心を得た。スヴォリンに愛されていると思ったリザヴェタは、大尉を伯爵夫人邸に引入れることを承知した。その夜は伯爵夫人が舞踏会に招かれ、侍女を連れて出かけたのだった。スヴォリンは伯爵夫人の部屋に忍び込んだ。帰宅した老夫人が寝支度をしていると、スヴォリンは姿を現わして、カード必勝の秘術伝授を乞うた。拒絶された彼が脅すつもりでピストルを突付けると、老夫人は驚きの余りに死んでしまった。スヴォリンはリザヴェタにこの事を知らせた。そして彼女に対する愛は誠の愛ではない事も告白した。リザヴェタは心を傷つけられ、かねて彼女に想を寄せるアンドレイの愛を受入れた。スヴォリンは寝もやらず物思いに耽っていると、老夫人の声が聞え、リザヴェタと結婚する事を條件に、秘術を教えた。スヴォリンは求婚したが、勿論リザヴェタは拒絶した。それでもスヴォリンは教わった術を宝の持腐れにはしなかった。彼は全財産を賭けてファローの勝負をした。彼の札はスペードの一、勝ったと思った瞬間、それはスペードの女王だった。伯爵夫人の顔をしたスペードの女王だ。全財産を失ったスヴォリンは魂をも失って、狂人となり果てたのであった。

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映画レビュー

3.0老伯爵夫人の顔が怖い! 野心家の士官の無謀な「賭け」を描く、プーシキン原作の幻想譚

2021年9月1日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

チャイコフスキーによるオペラ化で名高い、プーシキンの代表的短編(1834)を、比較的原作に忠実に映画化。製作国はイギリスなので、全編英語のモノクロ映画である。
打算的で上昇志向の強い平民出の主人公という意味では、『赤と黒』(1830)を引き継ぐ内容だが、終盤に幻想的な怪異譚に帰着するのがロシアらしいといえば、ロシアらしい。この主人公像は、ドストエフスキーの『罪と罰』のラスコーリニコフにも大きな影響を与えたとされる。

ストーリーは概ね原作をなぞって展開するが、最後の賭けのシーンが原作では三日に分かれるところを、ひと続きの勝負にしている(オペラと同じ)など、当時すでに存在した戯曲版やオペラ版における改変をうまく受容している箇所もあるかと思われる。
原作ではそこそこ頭がよく思索的な人物に感じられる主人公のヘルマンだが、映画内ではかなり鈍重な印象で、才に走って陥穽にハマるというよりは、その愚かさゆえに必然的に破滅へと転がり落ちてゆく因果応報ぶりのほうが強調されているようだ。

何といっても本作の見どころは、老ラネウスカヤ伯爵夫人を演じるイーディス・エヴァンス。
長く演劇畑にいた人で、なんと齢80をすぎてこれが映画初出演だったらしい。
この人の演技がもう、なんとも言えないくらい凄いんですよ。
猛烈に不機嫌で、いじわるで、高圧的で、だけど頭がべらぼうに回って、権力の何たるかを知り尽くした、魑魅魍魎みたいな怖い婆さんを、それはもう嫌ああああな感じで楽しそうに演じてる。もう出てくるだけで全部持っていかれる感じ(笑)。
だからこそ、その死にざまがまた、余計に怖い。
あんな顔して死なれたら、ヘルマンじゃなくても脳に焼き付いちゃうよなあ。
(ちなみに、カード必勝法を手に入れる回想シーンでは、すごい可愛い美人さんとして出てくるのが、なんか『ゴールデンカムイ』のソフィアみたいでねw)

映画の出来自体、きわめて堅牢でしっかりしている。
それぞれのショットには工夫が凝らされ、舞台背景や美術にもしっかりロシアらしさがある。
音の演出も、恐怖シーンのみならず、全編を通じてよく考え抜かれている。
スコセッシ他、多くの人が激賞するのもわかる気がする。

ただ前半、展開する内容の割に長尺すぎて、しょうじき冗長で眠たくなるのもまた確かだ。
ナラティヴもつなぎが今一つ悪くて、総じて何が起きているかが追いづらい。
屋敷に潜入するあたりからようやくリズムに生気が出てくるが、騙した女に教わった侵入経路にたくさん人が居てちっとも安全じゃないうえ、意味のないところでぐずぐずしていて窮地に陥ったり、伯爵夫人に対してノープランで挑んであえなく失敗したりと、主人公のやってることがダサすぎて観ているこちらもだんだん疲れてくる。
ラストの〈ファロ〉のカードゲームも、手作りすらない、親が出すカードを当てるだけのどうしようもない運ゲーで、あれだけ盛り上がれる意味が僕にはよくわからなくて……。というか、「3、7、A」が必勝法ということばの意味自体あんまり腑に落ちないまま(どのシチュエイションでそれを張ればいいのかみたいな限定条件がないと、このゲームでただ順番に3と7とAをぐるぐる張ってるだけなら傍目ただのバカなのでは?)、主人公はあわれ●●してしまった……(笑)

個人的には、主人公像が少しスポイルされすぎているように感じたが、とても丁寧な映画化であることに変わりはない。とにかく、「スペードの女王」その人である伯爵夫人の無双ぶりを観るだけでも、じゅうぶん鑑賞する価値はあると思う。

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じゃい
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