劇場公開日 1955年11月22日

「【”狂っているのは、彼か原爆の恐ろしさを知りつつ、何もしない我々か。”今作は、原爆の恐ろしさをテーマに描いた故、黒澤明監督による、社会派ドラマの逸品である。】」生きものの記録 NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0【”狂っているのは、彼か原爆の恐ろしさを知りつつ、何もしない我々か。”今作は、原爆の恐ろしさをテーマに描いた故、黒澤明監督による、社会派ドラマの逸品である。】

2023年6月25日
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鑑賞方法:VOD

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■家庭裁判所の調停委員を務める原田(志村喬)が担当することとなった、家族から出された工場を経営する資産家、中島喜一(三船敏郎)への準禁治産者申し立て裁判。
 原水爆に恐怖するあまり、全財産を投じてブラジルに移住しようという喜一と、反対する家族。
 原水爆の脅威にますます喜一の心は病んでしまい、彼は家族が当てにしていた自分の工場を燃やしてしまう。

◆感想

・ご存じの通り、今や世界の原爆が仮に全てが爆発したとすると、理論上では、地球は一瞬で崩壊する。この映画作品が制作公開されたのは、1955年という事だが、作品のテーマを考えると黒澤明監督の先見性及び発信したメッセージの重要性が、良く分かる。

・三船敏郎演じる中島喜一が、原爆の恐ろしさを知りブラジル移住を計画するという突拍子もないストーリー展開であるが、その中にはシリアス要素が幾つも散りばめられている。
 例えば、本来であれば中島の考えに賛同しつつも現実的な路線を提案するべき家族が、彼の思考、行動をほぼ全否定しようとする姿や、工場の従業員から”自分達だけ助かろうとするのか”と問いただされるシーンである。

<今作のラストも、異様にシニカルで恐ろしい。狂人と化した中島を見舞った原田に対し、中島は”ここに来れば大丈夫・・。ところで、地球にはまだどれくらいの人が居るのか”と問い、答えに窮する原田の前で、中島は太陽を見て”地球が燃えている。”と口にするのである。
 正に”狂っているのは、彼か原爆の恐ろしさを知りつつ、何もしない我々か。”・・なのである。>

NOBU