劇場公開日 1955年11月22日

「今観るべき」生きものの記録 Toshiさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0今観るべき

2017年1月29日
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黒澤映画のなかではもっとも一般的ではない作品。しかし無視してはならない巨匠の一作だ。特に現代社会に生きる我々は。
本作は原水爆ひいては核の恐怖をひとりの老人とその家族に仮託して描いている。その結果黒澤がよく持ち出す家族への不信なども表出して公開時には核反対のメッセージが届きにくいと批判されたようだ。老人を演じて名演をみせる三船敏郎もこの老人の考えがさっぱり分からないと云ったらしい。しかし3.11のあとの福島原発を抱える我々がみればこの老人の恐怖が分かる。人間が動物として持っているだろう本能的な恐怖。極めて予言的だ。老人の家族も今の視点でみれば毎日の生活に追われて福島を忘れたふりをしている現在の日本人のようだ。
当時の黒澤映画らしく技術的には申し分がないし、三船、志村喬ら黒澤組の演技陣の名演も必見。東野英治郎演じるブラジル帰りの老人のメイクはやり過ぎかな。

Toshi