劇場公開日 1995年7月29日

  • 予告編を見る

「芸術的な詐欺罪」クローズ・アップ Socialjusticeさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0芸術的な詐欺罪

2021年4月22日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

詐欺罪で刑を受けるサブジアンだが、彼が芸術が好きだと言っているが、彼の言葉からそれが伝わってくる。無職で貧困でも、その芸術性を身につけたんだが、これは台本を読んで勉強しただけなんだろうか?彼は、映画を作ったことはなく本や台本を読んだだけだと。台本から想像する力もあるわけだなあ。トルストイやコーランも読んでいるし、この教養の深さや弁が立つのはどこから来ているだろう? 人は話すことばによっても教養の一端が窺える
のはよくあることだと思う。しかし、彼の知識や論理や表現力、特に心に中の葛藤を詳細に視聴者に教えてくれる技に感心するだけでなく、判事やキアロスタミ監督の質問に対する答弁は辻褄が合っている。サブジアンは法廷でアッバスキアロスタミの『トラベラー』も引用している。この作品の主人公小学生(?)のガセンは、フィルムがなしの空カメラで写真を取って、お金をもうけて、サッカーを観に行くが、ちょっとの昼寝と思ったが、試合中全部寝てしまったため、全くサッカーを観戦できなかったという話だが、この詐欺とされる行為はこの主人公サブジアンは同じことだという。なあるほど、、いい点をついているね。おもしろいねえ。この二つの映画の時代は完全に理解していないが、心理的に共通性がある。サブジアンはかしこいね。この少年ガゼンはよくいる悪ガキだし、世間は一人前の大人ではなく子供と見る。家に帰ってどんな咎めを受けるか分からないが、詐欺罪で投獄されないと思う。しかし、サブジアンは相手方の訴えもあるが、投獄となる。少年は自分がサッカーを見たいが一心で犯罪とも知らず、目的を達したのかもしれない。サブジアンはモフセン監督に成り済ますことにより、『人に尊敬される』という気持ちが喜びに変わっていっているのが満足感でその目的を達成している。サブジアンも少年も直接の目的は金はない。でも、倫理観は?キアロスタミ監督の『カメラの前で演じているけど今どう思う?』という質問にサブジアンが言っていたけど、『私は今演じていない。くるしんでいる。芸術は心の中でどう感じたかという経験だ』と。もう監督を演じたねとキアロスタミ監督(?判事かも)サブジアンは人間が深い!!

イスラム国のイマンの存在はおおきいようだけど、ここでの法廷シーンが気に入った。映画でイマンが仲裁に入って何人かの人々で(男ばかりを見かけるが)問題可決するシーンはよく見かける。当時も弁護士や検事がいない。裁判官(イマン?)と訴訟をおこした側と起こされた側だけだ。アハンカ家とサブジアン家。司法から許可をもらった傍聴人アッバス・キアロスタミ監督がいる。裁判官はかなり、双方の意見を聞き、公平に質問をしていると思ってみていたが、素晴らしいのはサブジアンの論理展開とキアロスタミのツッコミ。現実問題、傍聴人がこれだけ突っ込めるか、私には分からないが、キアロスタミの質問が、サブジアンの心の中を描き出す。この監督はすごい!!

アッバス監督とサブジアンは繊細で、芸術肌で論理的でアリストテレスのレトリックの説得力を使っていて、二人の才能に共通性が私には見られる。

その他にも最後にモフセン監督に登場してもらったところがいい。『サイクル』をまだ観ていないのでサブジアンとこの映画のコネクションが私にはないので残念。
モフセン監督に会ったときは、なんとも言えないが、アブジアンにとっての喜びはかけがえなく、私はキアロスタミの計らいを絶賛する。彼があるインタビューでモフセンに感謝するとコメントを言っていたところはプロフェッショナルだし、モフセンもこの行動がサブジアンはもちろん社会を変える原動力になることを知っていると思う。それもモフセンとバイクで花を買って持ってアハンカ家に謝りに行くところがアブジアンの純粋な心が金欲で計ったことでないことが私にはわかる。

アハンカ家の二人息子は仕事がなかったりパンやで働いていてやりたい仕事にもついていない。ホメイニの時代の経済事情を知らないが、彼らが職にありつけないんだから、アブジアンが無職なのも肯ける。法廷でアハンカ家の息子が『職がないことは頽廃につながる。アブジアンに定職を与えられれば、かれは正直な生活をすることができる。それなら許す』と私の理解が間違いなければ言っている。この言葉は強烈だし、この息子も同じ立場なのだ。それにコロナ禍の今の社会にも当てはまる。社会的責任を果たせる職場がないことで、人間は家族もサポートできず、自分もダメになってしまうと言うことだ。

アハンカ家のアブジアン青年をバスの中で先ず、モフセンだと思った女性がアブジアン青年が警察に連れ去られるとき、『お昼ご飯を終えてから』という言葉、憐憫を示すところが好き。

P.S.
この映画がこんなに人間の重みを描いた作品だとは知らなかった。無料YouTubeで観たから、気になる言葉をもう一度聞くことができた。あとで、アブジアンの生活が気になってキアロスタミ監督のインタビューを聞いた。サアブジアンは52歳でなくなり、亡くなる前はキアロスタミ監督と次の映画の作成が始まる前だったそうだ。

Socialjustice