劇場公開日 2022年6月18日

「イタイ!!! 何かを変えようと闘う男の生涯。」奇跡の丘 とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0イタイ!!! 何かを変えようと闘う男の生涯。

2021年3月9日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

単純

知的

ヨーロッパやUSAの映画を理解する上で、”教養”としてキリスト教を学ばなければ。でも、聖書を読むのは面倒、でも映画ならと鑑賞した作品。

私はキリスト教者ではありません。神社にもお寺にも、教会・モスク・お地蔵さんにもお参りをしてしまう、神的存在は信じるけど、特定の宗教とは距離を置いている人間。
 そんな人間の感想です。(キリスト教者から非難来るかしら?)

映画では、
ほとんど無表情に近いアップが多い。
 大工ヨセフが婚約者マリアに会い、お互い葛藤し、失望し、歓喜する場面はその演出が見事に活きているが(ドキドキする)、
 他は説明もなく、監督が必要最低限と思っている台詞のみ(聖書の言葉のみなのね)なので、
 キリスト教信者でない私は、”なんとなく”を読み取るしかない。
 それでも筋は『ジーザス・クライスト・スーパースター』他で有名なキリストの一生なのでなんとかついていったけど、う~ん。
 なぜ、ここでこのショット。こういう画にしたんだろうと…。
  演技に共感すると言うより考えちゃう映画です。

母マリアは最後まで出てくるけど、育ての父ヨハネはどうなっちゃうの?イエスに兄弟いたんだ。

街が崩壊するシーンとか、この制作年代でどう撮ったんだろうと不思議な場面もありますが、基本はロケで、構図とかはそれなりですが、あまりにも淡々と進む。

役者は素人とな。
 でも、日本の地方に根付く歌舞伎に似て、ヨーロッパ世界でクリスマスの劇を村・その地域で村人が演じ続けていると聞くから、そんな役者が集まったのか。聖書の言葉なら、日頃から親しんでいるだろうし。

とは言え、力強い映像。記憶に残る。あの場面、この場面。
 アップと、引きのバランス感覚は見事。

…職場にもいる、こういう青年。
 激して主張していることは正論なんだけど、空気読まずに、戦略考えないから、最終的に自滅していく。そんな様がだぶって見えてしまいました。
 彼なりの正義に酔っていたのか、神=父という存在頼みの虎の皮をかぶった狐のごとき傲慢な姿勢が崩せなかったのか。
 「育った町では布教できない」って言うところも、やけにリアル。故郷ではカリスマのベールは通用しない。
 こういう聖書の一節を身体の隅々まで浸透させられているヨーロッパ・USAの人々。戦争がなくならないわけだ。

そして、”民衆(マス)”の恐ろしさ。
自分の利害・気持ちで風見鶏。同じく”正義”で人を追い詰め、命さえ奪う。責任感なしに。

映画祭でカトリック教会が賞を授けたという、お墨付きの神の物語。
でも、私には、葛藤しつつも己の信じるところを貫き通した青年の物語。
 それが、淡々と描かれる。

 人間の物語として観ると、老いたマリアの慟哭がただただ胸をかきむしられる。
 そして、サロメの踊りが美しく、映画を通じて僅かな美的で引き込まれる場面。

余計な虚飾を一切排除した映画です。

とみいじょん