劇場公開日 2014年9月27日

「名画がよみがえつた!」駅馬車(1939) KIKUCHIYOさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0名画がよみがえつた!

2014年12月4日
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単純

興奮

昔どこかの名画座で観た時は、フイルム状態が悪く、細部は暗くて分からなかったが、今回は鮮明に観れた。光と影のコントラストが、モノクロとは思えない美しさを生みだし、スクリーンに釘付けにする。恐らく、B級映画として作られたこの映画が、なぜかくも愛され続けているのかがよく分かる。30年代まだ映画製作技術が未熟だった時代に、これほどダイナミックでスピード感あふれる映像が、スクリーンに映し出されたら、観客は皆湧き立っただろう。当時の歓声が聞こえてくる気がする。

ジョン・フォードの写真を見ると、黒澤明を思い出す。黒澤明を師と仰ぐ映画人がいるように、黒澤明はジョン・フォードを師と仰いでいた。黒澤明の格好もそうだが、映画のスタイルも似ている。この作品のジョン・ウエインは、さしずめ、三船敏郎といったところだろうか。手に汗握るアクションシーンも、黒澤明は、ジョン・フォードに勝るとも劣らない。

しかし、黒澤明が上手く出せなかったのが、ジョン・フォードの詩情性だ。「詩情豊かな映像の詩人」と言われるように、西部劇というアクション主体の作品の中にも、登場人物たちの人生の機微が、ちゃんと表されている。軍人の妻、水商売の女、アル中の医者、銀行頭取、賭博師などなど、駅馬車という小さい空間に閉じ込めて、人間ドラマを描いていく。緊急時の駅馬車でなければ、この人物たちは、乗り合わせることはなかったかもしれない。そうなのだ、アパッチに狙われた駅馬車だからこそ、こんな面白い人間ドラマが展開した。本末転倒だが、アクションシーンは、人間ドラマのオマケのように思えてくる。駅馬車は、奥が深い。

Jun Tanaka