劇場公開日 2020年10月3日

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「決して日野日出志のホラーアニメではない」ヨコハマメリー kossyさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0決して日野日出志のホラーアニメではない

2020年10月8日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 チラシを見るだけで異様な雰囲気につつまれる人物“ハマのメリー”。写真だって本物じゃないと思っていたけど、森日出夫の写真が映し出されると実在の人物なんだと思い知らされる(イラストも日野日出志ではなくて宇野亜喜良だとわかったし、映画で使われる「伊勢崎町ブルース」も青江三奈じゃなくて渚ようこだった)。

 横浜に住んでいる人ならば“メリーさん”と聞いただけでわかる人が多いほど有名人。戦後混乱期から50年間、横浜で娼婦として生きてきた女性だ。「娼婦?」などと聞くと今ではもちろん犯罪ですから、都市伝説のような存在、噂話が膨らんだだけの存在のように思われがちですが、実際に親交のあった者、彼女が利用していた店の人が証言するにつれ真実味を増して、ドキドキするような展開のドキュメンタリーとなっていました。

 逮捕歴22回。GI相手の娼婦としてしか生きる術がなかった戦後混乱期の女性が、日々変化する時代に順応することも出来ずにそのまま己の道を貫いたのだろうと想像させられる。加齢とともに歌舞伎役者のように真っ白に塗りたくった顔になってゆくが、本当の自分を隠さざるを得ない心情を思うだけで悲しくなってきました。常に全財産を持ち歩き、定住する家もない。それでも彼女に暖かな心遣いで見守る人たちもいる。過去や境遇は謎に包まれてはいるけど、人々に生きる勇気を与えてくれる人物には違いないんですから・・・

 メリーさんの謎を追い求めるドキュメンタリーだと思っていたのですが、同時に永登元次郎という人物にもスポットを当てた内容でした。末期がんに冒されているけど、シャンソン歌手としてリサイタルをひらいたり、精力的。余命いくばくもない彼もまた男娼の経験があり、メリーさんとは通ずるものがあったのだ。1995年に忽然と姿を消したメリーさんにもう一度会いたい。闘病生活の最中に抜け出して、空っぽになった病院のベッドが妙に生々しく映り、最後には涙をこらえることができなかった・・

 ひとりの女の一生。本人の口から心を語られることもなく、横浜の風景の一つになっているほど象徴的な人物。敗戦によって日本が失ったモノを彼女の存在そのものが語り継いでいるといえば大げさかもしれませんが、彼女がいなくなってしまうと、終戦からの歴史がひとつ消え去ってしまうように感じる人もいるかもしれません。まだ若い監督の作品らしいですが、映画史に残すべきドキュメンタリーだと思います。

【2006年7月映画館にて】

kossy
マサシさんのコメント
2023年7月17日

なるほど、なるほど。ちょっと印象が揺らぐのはそう言う事もあるのかって思いました。

マサシ