すばらしい蒸気機関車

劇場公開日:

解説

数年後には完全に滅びてしまうという蒸気機関車への郷愁を、美しい日本の四季をバックに謳い上げた長篇記録映画。

1970年製作/81分/日本
配給:日本へラルド
劇場公開日:1970年10月10日

ストーリー

○鹿児島機関区。国鉄現役SLのなかでも最も小さい全長7メートル、動輪直径86センのB20。鹿児島駅から、熊本始発で帰ってきたハドソン型のC61が、ねぐらに憩うため、最後の息を吐きつつ入区してくる。煙のたちこめるヤード。ここではパシフィックの、すばらしい動輪のC55もみられた。○宮崎機関区の春の陽ざしは明るい。水洗の化粧を続けるC57。国鉄中型SL、とびぬけてスマートな細身のバランスを誇る貴婦人。まだ150輛が働き続けるこの美人は、D51と並んで、現在のSLブームを支えるふたつの壁の一つともいえる。彼女の、重厚でモダンなボックス型動輪とこれに続く筑豊本線のC55の尖鋭なスポーク動輪--その違いを眼のあたりに見る、SL美鑑賞の妙味。○春の日本を、機関車たちは走る。筑豊本線の上りは、筑前羽生駅を出て遠賀川の鉄橋にかかる。若い緑のなかをゆくC55、そしてD51。この巨人は今、ぐるりとループ線をあえぎ昇って、矢岳駅へ達しようとする。有名な矢岳越え。胸もときめくばかり、のぼり勾配の力学。春はまた、瀬戸内の海辺にも風を送る。糸崎行きのC59は戦前戦後にかけて、急行旅客列車の花形だったSLだ。が、今は改造と廃車、わずか僚車3台を余すのみの残光、かつて「つばめ」「はと」をひいて、東海道、山陽を疾駆した栄光のC62が、この呉線で余生を送るのとふたつ--惜春の想いは、いよいよつよい。○熊本機関区。黒煙のなかから湧きでるのはC60。人吉へ出発するC57の俊敏なシルエットが、熊本駅に滑りこむ。回転台に乗せられた、小型タンク機関車C11。○岡山と米子--山陰の海を結ぶ伯備線のほぼ中心。へそのように姫路線、芸備線も集まってくる新見。この機関区は、今なお50輛をこえるSLが在籍する、山の大基地だ。その緑の山々を縫って、いま伯備線の谷間、苗代の中を一条にさいて走るC58の俯瞰。両側から梅雨の谷、吐き続ける白い小蒸気が、船の切る白波のように後へ拡がり飛んで、彼は走る。天がけるように日本の山を走る。後方に補機を従えたD51の雄姿。連日の細雨に濡れそぼった布原信号所は、朝も夕暮れの暗さである。その雨の中を石灰岩満載の貨車が、三重連のD51に前後を守られて出発する。滑り光るレールを噛みしめるように、総身のダイナミズムをのぼり勾配にこめてのダッシュ。D51三重連!○夏--C85の巨大な大写しの影が、陽光の向うからゆらめきよろめき近寄ってくる夏である。ここ京都、梅子路機関区。白い蒸気をあげて、威勢を誇示する、若人のように簡潔なC11。そして、引込線の隅に、じいっとたたずみ続ける620。大正初期、急行用に初の国産機関種の一つとして登場して、今なお二百輛がローカル線やヤードに在籍する、国鉄史の証人、目撃者。ハチロクは、いま、この黒い国土の構内で、何を語ろうとするのか。○秋の山陰本線は河原の白さが美しい。その鉄橋をゆくC57。私たちは、ここに、豊饒と凋落の秋の日本の中を、黄金に輝きながら征く蒸気機関車を幻想する。丹波の農家の庭先を、大和の崩れた土塀の遠景を、柿の葉ずえの畑を、すすきの原を、そして瀬戸内の海辺の町の秋を、幻のようにひたはしるD51、C58、そしてC62。それは、日本の風土と文化の機械美とが生みだした、夢幻の結晶。旅の形象化。ついに幻21紀まで持ちこすことのできない私たちの財宝である。秋もおそく、カメラは三度び、九州を訪れて直方機関区にD51の修理を見、若松から送られてきた、D50を凝視する。かつて量産を誇ったこの労働の車も、いまは若松に三輛を残すのみ。○うすら寒さは北国は、もっと早い。かつては急行もひいたC61は、いま奥羽本線に押しつめられてここ大館駅で見ることができる。小春日和の西舞鶴駅にみるのは、今は入換専用となった軽量C12。しかし、これと兄弟筋のC56は90%までが南方で戦死をとげたものの、今なお飯山、七尾、木次などの線で会うことができる。カメラが彼を木次線の出雲板根の駅に訪れた日。すでに山陰の大地は、白一色であった。その凍りついた山路を、千分の三十の急勾配へスイッチバックで挑戦してゆくC56。堪えよ、この戦前派の小兵。宮津線にラッセルが出るとき、日本は完全に真冬だ。倉吉線関金駅の朝、通学生を運ぶC11。米坂線越後下関駅。ここではキュウロクが半世紀保った体駆をまだ雪の中へ投げだして走り続ける。ひたすらに、ひたすらに。一世紀にわたった国鉄のSL史。それは輝やかしい春、激しい夏、豊かな秋を経て、いま、きびしい冬の白さの中に、黒い巨体を閉じこめようとする。宮津線のカーブをゆく、キュウロクとC58による本務、補機の重連。花輪線竜が森の山すそを、きょうも進むハチロク。私たちはこの老兵が、全身に涙々とあふれさせる使命感に、生涯を黒い煤のなかで火と燃えつづけて走り、悔いなかった者の、なにものにも代えがたい尊さをみるだろう。

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映画レビュー

3.5蒸気機関車への愛が感じられます。

2016年1月18日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

幸せ

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ピニョン