劇場公開日 1968年8月14日

「特撮もまた米英に敗戦したことが明らかになったのです」連合艦隊司令長官 山本五十六 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0特撮もまた米英に敗戦したことが明らかになったのです

2020年9月9日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

1967年から6年間続いた東宝8.15シリーズの第2弾です
第1弾は名作「日本のいちばん長い日」です
本作も良くご覧になれれば反戦メッセージの映画であると分かって頂けると思います

実質的に1953年公開の本多猪四郎監督の「太平洋の鷲」のリメイクです
特に前半はほとんど同一のシーンや台詞があります
内容も同じく、海軍次官時代から始まり、南方で待ち伏せ攻撃を受け戦死するまでを描いています

序盤は三国軍事同盟を阻止しようと努力し、対米戦回避をいかに山本五十六が主張した人物であるのかを描きます
中盤からは真珠湾攻撃、ミッドウェー作戦、ガダルカナルの戦いを描き
終盤はブーゲンビル上空での戦死です

この構成は「太平洋の鷲」と変わりありませんが、重点の置き方の配分が異なります

本作ではガダルカナルの戦い、ソロモン海海戦、ルンガ沖夜戦、南太平洋海戦に重点が置かれておます
「太平洋の鷲」ではミッドウェー海戦に重点が置かれています
ミッドウェー海戦の描き方は「太平洋の鷲」が白黒作品でも一番スリリングにかつ、何が問題であったのかを的確に表現できていました

真珠湾攻撃なら、戦中の1942年に公開された「ハワイマレー沖海戦」
ミッドウェー海戦なら、1953年の「太平洋の鷲」、1960年の「太平洋の嵐」
ガダルカナルの戦いなどなら、1968年の本作、1954年の「さらばラバウル」
こういう具合に作品毎に重点が異なります

もちろん特撮は全て円谷英二特技監督です
特撮の系譜の中では、1968年8月1日公開の怪獣総進撃の直後同年8月14日公開の作品となります

特撮は過去の戦争映画のカラー撮影の特撮シーンから抜粋を中心に不足する部分を新撮影で補っている程度です
新撮影は3割程度の印象です

過去作品より後の作品ですから、新撮影の特撮シーンの方が技術が進化して良い映像であると思いたいのですが、そうではないのが辛いところです
正直、1960年の「太平洋の嵐」が、本編も、特撮も最も優れていたと言わざるを得ません

それより8年も後の本作はあまり特撮の進化を認められません

ごく一部良い特撮映像もあることはあるのですが実態はこれです
それは怪獣映画と同じだったと言うことです
1960年頃が東宝特撮イコール日本の特撮のピークだったのです

本作の翌年の1969年のイギリス映画の空軍大戦略の空戦シーンの方が特撮のクオリティは上でした
もっと言えば1970年の米国映画のトラトラトラの特撮には逆立ちしても太刀打ち出来ません

何より本作の4ヶ月前には「2001年宇宙の旅」が日本でも公開されていたのです
日本の特撮界にとっては黒船どころか、原爆が落ちたようなものです

つまりガラパゴスに陥り進化を止めていたことが明らかになったのです
残念で悲しいことです
特撮もまた米英に敗戦したことがあきらかになったのです

しかも本編のセット、美術、エキストラの動き、そして特撮
どれも8年前の1960年の「太平洋の嵐」の方が優れています
退化しつつもあったのです

では本作は全く駄目な映画かというとそうではありません
これまで何作も戦争映画に三船敏郎が出演していますが、今まで山本五十六を演じるのは違う役者でした
しかし本作で初めて、三船敏郎が山本五十六を演じるのです!

「太平洋の鷲」での大河内傳次郎が写真の本人に一番近いリアルな山本五十六なら、本作の三船敏郎は、日本人が司令長官はこうであって欲しいという、山本五十六のイメージを体現しています
日本人の思う偉い人!という姿形、オーラを発しています
それを愛でる値打ちはあります

あき240