劇場公開日 1951年11月23日

「日本人の夫婦の形の普遍性があります」めし あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0日本人の夫婦の形の普遍性があります

2019年10月8日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

感動しました
本当に身に詰まされました
観ていて自分がなじられているかのような切実さとリアリティーさが詰まっています
日本人の夫婦の形の普遍性があります
21世紀の現代の夫婦でもあるあるだと思います

単調で繰り返しばかりの退屈な日常
互いに愛し合ったから結婚したのに、そんな繰り返しの日々
それぞれの心が磨耗するのは当然のことです

里子が三千代が失いつつある若さを象徴しています
やり直せるなら今が最後のチャンスかも知れない微妙な焦り

31歳の原節子はその倦怠感と焦りを見事に演じています

ラストシーンで疲れて眠りこける夫の初之輔をいとおしく見つめる三千代の視線に、分かってくれたのかとの思いと許されたとの思いで胸が熱くなり、そして彼女のモノローグで涙腺が緩みました

悪く言えばもたれかかっている関係かもしれません
でもお互いに精一杯日常を生きているのです
この生活を維持したいのです
楽で安心できる関係、それはお互いへの信頼ともいえるのではないでしょうか
もしかしたらそれが愛といえるのかもしれません
大げさでない日常の中の愛です

言葉にしたら全てが壊れてしまう
もう元の関係には戻れない
夫婦とはそんなものかと思います

何もかも言葉にせず飲み込んでばかりの夫と、何でも言葉にしてしまう妹の婿養子の信三の対比
それが破り捨てられる手紙に繋がって行きます

ラストシーンで出さなかった手紙を三千代は散り散りに列車の窓から撒き捨てます
そのシーンは砂の器でオマージュされていました
成瀬巳喜男の目が覚めるような演出でした

三千代は猫に満たされない愛情を向けていました
子供が生まれたなら二人の夫婦の在り方は、また新しい形に変化していくのでしょう
子はかすがいとは良く言ったものです
初之輔が転職をして生活にゆとりができれば、また新しい夫婦の物語が始まる筈なのです
そんな明るい希望に満ちた結末でした

心に残る素晴らしい傑作です
ですが国際的にこの夫婦の在り方の物語の感動が理解され共有されるとはとても思えません
しかし日本人が日本人であるかぎり、本作にある夫婦の在り方は普遍的に続いていくものなのだと思うのです

南武線矢向駅、なんと今でもこの当時の駅舎のままだったんですね
多少お化粧されているだけです
驚きました

大阪の光景はすっかり変わり果ててしまってます
北浜の大阪証券取引所と大阪城くらいがそのままで、あとは一体どこがどこやらでさっぱり分かりません
キャバレーメトロはおそらく道頓堀の東端の宗右衛門町にたつ大きなホテルがその跡地と思われます
その名前を冠していますから
ちらりと映る繁華街の石造りの橋は、今はない心斎橋そのものかも知れません

あき240